弁護士コラムバックナンバー

新型コロナウイルス感染症の影響により休業を余儀なくされた場合の雇用契約上の留意点

山田 康成

 新型コロナウイルス感染症拡大により2020年4月7日、政府から東京など7都府県を対象に緊急事態宣言が出されました。企業の事業活動にも多大な影響が出ています。企業によっては、事業所を閉鎖したり、従業員の休業を余儀なくされたりする事例も出ています。本稿で、新型コロナウイルス感染症の影響により休業を余儀なくされた場合の雇用契約上の留意点について記載します。なお、本稿は、2020年4月8日現在の情報に基づいて記載したものです。


1 休業を実施する場合の賃金支払い義務に関する法律の規定

 従業員の休業を余儀なくされた場合の賃金の支払い義務については、民法と労働基準法に定められています。

 まず、民法上の規定ですが、企業の責に帰すべき事由による休業でなければ、企業の賃金支払い義務はありません(民法536条2項)。

 労働基準法26条にも、条文上は同じように、企業の責に帰すべき事由による休業の場合でなければ、平均賃金の100分の60以上の休業手当の支払義務が発生しないと定められていますが、労働基準法上の企業の責めに帰すべき事由の判断基準は、労働者の生活保障という観点から、民法上の判断基準と比べ、より広く企業側に起因する経営、管理上の障害も含むものと解釈されています(ノース・ウエスト航空事件 最判昭62・7・17)。新聞報道等で、不可抗力の場合には、休業手当の支払い義務は発生しないと言われているのは、そのためで、休業手当の支払い義務の存否の判断は、民法上の賃金の支払い義務の判断より厳格に判断されます。

 厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(令和2年4月6日時点版)によれば、不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすことが必要であるとされています。そして、その具体的として、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合に該当し、休業手当の支払が必要となることがありますとされていますので、休業手当の支払いをしない場合の判断は慎重に行う必要があるでしょう。

 厚生労働省のQ&Aでは、海外の取引先が新型コロナウイルス感染症を受け事業を休止したことに伴う事業の休止である場合には、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられますと記載されています。


2 雇用調整助成金の申請の検討

 このように、休業の原因が不可抗力の場合には、休業手当の支払い義務も発生しないことになりますが、事業主の方に是非検討していただきたいのが、雇用調整助成金の申請の検討です。

 雇用調整助成金とは、景気の後退等、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされ、雇用調整を行わざるを得ない事業主が、労働者に対して一時的に休業、教育訓練又は出向(以下、「休業等」といいます。)を行い、労働者の雇用を維持した場合に、休業手当、賃金等の一部が助成されるものです。

 現在、厚生労働省は、全国の事業主に対し、「新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置」を設け、その支給要件を緩和するとともに、支給率も大幅に引き上げています。

 具体的には、4月1日から6月30日まで、全業種の事業主に対し、1か月の生産性が5%以上低下した場合には、中小企業に対しては、賃金の4/5(大企業に対しては、2/3)、さらに、解雇をしていない事業主に対しては、中小企業に対しては、9/10(大企業に対しては、3/4)の割合の助成金が支払われることが発表されています。(ただし、対象労働者1人1日当たり 8,330円が上限です。(令和2年3月1日現在))また、雇用保険被保険者でない労働者の休業も助成金の対象に含まれています。

 このように、法的には、賃金又は休業手当の支払い義務はない場合であっても、「新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置」を利用するなどして、休業中の従業員に対する賃金または休業手当の支払いを検討していただければと思います。

 仮に、事業を縮小することによって、やむなく、整理解雇を検討しなければならない場合がありえますが、整理解雇の有効性は、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性という上記4つの要素を総合考慮して判断されますが(労働契約法16条参照)、②解雇回避努力を行ったかの判断要素として、雇用調整助成金の活用を検討したか否かについては問われることになるでしょう。

 「新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置」の最新の情報につきましては、厚生労働省のサイトをご確認ください。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
このコラムを書いた弁護士に
問い合わせるにはこちら
関連するコラム
↑TOP