弁護士コラムバックナンバー

訴訟で勝つための証拠収集

葛山 弘輝

1.訴訟における証拠収集

 裁判をすることとなった場合、訴えを提起しようとする者(原告となる者)は、裁判に勝つためには、「自ら証拠を収集」して、言い分をまとめて、裁判所に提出する必要があります。

 日本の裁判制度においては、原告側は、いかに自分に正義があり、本来は勝つべき事案であったとしても、証拠がない限り、裁判には勝てないこととなっています(専門的には、「弁論主義」と呼ばれています)。

 したがって、証拠がない限り、原則として裁判には勝てないのですが、裁判に勝つために必要な証拠が、自らの手元になく、「第三者が保有しているケース」や、場合によっては、「相手方の手元にあるケース」がありえます。

 このような場合、訴訟で勝ちたい原告としては、勝つための証拠をどのように入手したらよいのでしょうか。

 原告本人が自ら、証拠となる資料をくださいと、第三者や相手方に直接要請しても、手に入らないケースが多いのが実情です。

 そうすると、証拠が手元にない場合、裁判で勝つために、なすすべがないのでしょうか。

 この点について、法律は、充分とは言えないものの、いくつかの制度を用意していますので、一部をご紹介いたします。

2.弁護士会を通じた資料の提出要請(弁護士会照会)

 裁判で勝つための証拠を、自らが持っていないものの、「第三者が保有している」場合、直接、その証拠を出して貰うよう、お願いをすることが考えられます。

 ただし、その第三者は提出する義務を負わないのですから、あくまでお願いに過ぎませんので、断られることもありますし、出してあげたいけれど、個人情報に関わるものだから出せない、と言われることも多いかと思います。

 そのような場合、弁護士であれば、法律に基づいて、証拠を持っている第三者に対して、「弁護士会から」証拠を出すように要請することが可能です(弁護士法23条の2)。

 この制度を、「弁護士会照会」といいますが、法律に基づく要請ですので、問い合わせを受けた者は回答義務がありますし、この要請に対する回答をしたことによって、個人情報保護法違反となることはありません。

 弁護士会照会が、どのようなケースにおいて有効かですが、たとえば、訴訟で訴えようとしている相手が、同種の裁判で訴えられているかを裁判所に調査することができます。

 また、国内に居住しているか不明な者に対して裁判をするために、出入国の履歴の調査を、出入国在留管理局にすることなどが、実務的には行われています。

 参照:第二東京弁護士会「弁護士会照会(弁護士法第23条の2) 利用のすすめ」

 参照:日弁連「弁護士会から照会を受けた皆さまへ」

3.裁判所による、相手方の住所への直接の乗り込み(証拠保全)

 裁判で勝つための証拠を、第三者ではなく、相手方が保有している場合、上記の「弁護士会照会」で回答をしてこないことが想定されるため、別途の方策を採る必要があります。

 裁判をする「前の段階」において、取りうる手段としては、「証拠保全」という手続があります。

 これは、裁判所が、相手方の住居・事務所に直接乗り込んで、証拠を提出させるという手続になります。

 伝統的には、医療事故等で、カルテの改ざんなどがなされるおそれがある場合、裁判所が病院に乗り込んで、カルテを訴訟に先だって提出させる、ということが、実務的にはしばしば行われてきました。

 現在では、医療事故に限られず、投資被害事件において業者の保有する資料を、保全するため等にも利用されています。

 「証拠保全」手続は、任意の提出を求める制度ですが、裁判所は、検証物提示命令のような、強制力のある命令をする権限も有しており、これに基づいて提出された資料が、その後の裁判において、勝敗を左右する証拠となるケースも多々あります。

 また、証拠保全手続を実施したにもかかわらず、相手方が資料を提出せず、訴訟になってから相手方が自己に有利な証拠として提出した場合、その資料は改ざんされた可能性があるとして、相手の提出する証拠の信用性に対する攻撃材料ともなりえるため、仮に証拠保全手続で、証拠を入手できない場合であっても、有利な材料となることもあります。

 参照:横浜地方裁判所「リレーエッセイ「ハマの判事補の1日」(第25回)証拠保全」

4.相手方に対する裁判中の質問(求釈明・当事者照会)

 訴訟の提起後に、裁判で勝つための証拠を相手方が持っていると考えられるようなケースでは、裁判手続の中で、相手方に対して事実関係を説明させ、その裏付け証拠を自主的に出させていく、ということが考えられます。

 すなわち、相手方に対して、紛争となっている事実関係を説明させることで、どのような証拠を保有しているのかが把握できるケースもあるため、訴訟遂行の中では、このような「相手方に説明をさせる」というやり取りは、重要なものとなっていきます。 

 相手方に事実関係を説明させるための手続としては、裁判所を通じてのもの(「求釈明」)と、直接の確認を求めるもの(「当事者照会」)との2種類がありますが、実務的には、裁判所を通じての事実関係の確認を求めるのが一般的です。

 なお、裁判所が相手方に説明を求めたとしても、相手方は必ずしも回答するとは限りませんが、容易に回答ができ、かつ、答えることに支障がないにもかかわらず、裁判所の質問に回答をしないということは、その回答拒否という事実自体が、裁判所の心証形成に影響を与えることとなり、場合によっては、これが訴訟の帰趨に大きな影響を与えることもあります。

5.裁判所から第三者に対する調査(調査嘱託)

 上記2において、「弁護士会照会」という制度をご紹介しましたが、訴訟の提起後ですと、裁判所から、第三者に対して資料を出すよう、「裁判所の名前で」、問い合わせることができます(「調査嘱託」)。

 裁判所が、その問い合わせが必要であると判断して初めて実施できるものではありますが、裁判所の名前での問い合わせですから、回答を得られる可能性は高くなるため、実務的には有効です。

 以前のコラムの、「相手方(被告)の住所が不明の場合の訴訟対応(住所の調査方法)」でもご紹介しましたが、電話番号から相手の住所を、携帯会社に問い合わせるなどの調査が実務的には、よく利用されています。

6.相手方に対する裁判所からの文書提出の命令

 裁判に勝つための資料を相手方が保有しているのは間違いないにもかかわらず、提出をしてこない、というような場合には、裁判所は、相手方に対して、その資料を提出するよう命令をすることができます(「文書提出命令」)。

 文書提出命令は、相手方が従わなければ、証拠を出さなかったことをもって、裁判所は、提出しなかった者に不利な事実を認定することが出来るとされており、法的に大きな意味合いを有しています。

 ただし、文書提出命令は、申し立てれば、裁判所が必ず認めるものではなく、提出をしなくてよい事由が法令上定められており、その解釈を巡って、長期間争われるようなケースもあります。

7.おわりに

 このように、裁判で勝つためには、証拠が必要ですが、その証拠が手元にないケースでは、証拠収集から、法的な手続を実施する必要があます。

 証拠収集の結果が、裁判の結果に大きな影響を与えるものですから、法的な紛争となる事例においては、訴訟の提起前から、これらの点をよく検討をしたうえで進めていく必要があります。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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