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民事訟手続における住所、氏名等の秘匿制度

石田 英治

 民事訴訟を提起する際、訴状には、原則として原告の住所・氏名を記載することになっています。

 その訴状は、相手方である被告に送達されることになりますので、被告は、普通に作成された訴状を見れば、原告の住所・氏名を知ることができることになります。

 しかし、自らの住所・氏名を被告に知られずに訴訟を提起したいと思うようなケースも考えられます。

 典型的には、性犯罪の被害者が加害者に対して損害賠償請求をするケースです。もしこのような場合でも住所・氏名の記載が常に求められるとすれば、訴訟の提起を躊躇させることになってしまいます。

 そこで、近時、民事訴訟の手続が改正され、令和5年2月からは、住所・氏名等が相手方に知られることによって社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある場合には、自らの住所・氏名を秘匿して、民事訴訟等を提起することができるようになりました。

 この制度が施行される前でも、暴力団員相手の民暴事件などでは、原告の住所を代理人弁護士の法律事務所にして訴状を作成することがよくあり、裁判所も多くの場合はその便法を認めてくれました。

 実際、私も、数年前に、特殊詐欺の被害者から依頼を受け、指定暴力団のトップに使用者責任を求めた訴訟で、その方法を用いました。

 しかし、前述のとおり新しい制度ができましたので、今後はこのような便法は認められなくなるものと思います。

 数か月前に、性犯罪の被害者から依頼を受け、刑事事件の被害者参加に伴い損害賠償命令の申立てをした際、使い慣れた上記の便法による申立てをしようと思い、裁判所の書記官に相談したところ、あっさり拒否されてしまいました。

 上記の便法は、制度の欠陥を補うための弥縫策であり、制度が改善されれば認められなくなることは、考えてみれば当然のことです。

 新しい制度を使うためには、勉強が必要であり、また、解説書を見ても、実際の運用がわからないところもあり、書記官に色々と教えてもらいながら進めましたが、先日、無事に手続が終わり、決定書が届きました。

 そこには申立人の住所として「代替住所A」という記号が記されていました。

 裁判所の決定を得ても、犯罪加害者からの債権回収は困難であることが多く、この点についても制度の改善が望まれますが、住所、氏名等の秘匿が認められたことは大きな前進であり、被害者が泣き寝入りをすることが少しでも減ることに繋がることが期待されます。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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