損害賠償請求事案における「損害の公平な分担」について
1 以前にこの弁護士コラムで「使用者責任のいわゆる逆求償について」として、最高裁判所第二小法廷令和2年2月28日判決について触れたことがありました。
同判決は、被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について使用者に対して求償することができるものと解すべきであるという旨を示して、いわゆる逆求償(使用者から被用者への求償ではなく、第三者に対する損害賠償義務を履行した被用者から使用者への求償)を肯定しました。
そこでは、「損害の公平な分担」が重視されています。
その後、業務の執行中の事故に関する損害賠償請求の事案で、ある会社が業務委託先の会社の従業員に対し賠償を請求できる範囲を、信義則上その損害額の10%を限度とすると判示した高裁判決が下されていますので、今回はこれについて考えてみたいと思います。
2 事案をごく簡略化しますと以下のとおりです。
建設業等を目的とするX社は、A社に業務委託をしており、A社の従業員であるYに対し、業務の執行のためにX社所有の車両(トラック)を運転させていました。そうしたところ、Yが自損事故を起こしました。
X社は、車両保険に加入していましたが、当該保険では保険金による補償を受けられない免責金額の部分、補償対象外の代車費用及び逸失利益について、民法第709条に基づきYに対して損害賠償請求訴訟を提起しました。
第一審は、請求額のうち極めて僅かの金額についてX社の請求を認容する判決を下しましたが、X社及びYの双方が、自己の敗訴部分を不服として控訴しました。
3 かかる控訴事件について、東京高等裁判所令和6年5月22日判決は、本件において、X社が事故により被った損害のうちYに対して
「賠償を請求することができる範囲は、信義則上、その損害額の10%を限度とするのが相当である。」
とした上で、その10%にあたる部分については、X社がA社から実質的に回収していることを認定して、X社はYに対し損害賠償を請求することができないと結論付けました(取消自判)。なお、当該判決は確定しています。
4 当該判決は、賠償責任の制限の可否について判断を下すにあたり、まず、
「使用者が、その事業の執行についてされた被用者の加害行為により直接損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度においてのみ、被用者に対し上記損害の賠償を請求することができるものと解される」
として、前述の最高裁判所第二小法廷令和2年2月28日判決でも引用されている最高裁判所第一小法廷昭和51年7月8日判決に言及して、「損害の公平な分担」の見地から判断するスタンスを明らかにしました。
そして、本件YがX社の被用者(従業員)でないとしても、X社の従業員から解体作業や廃材の運搬についての具体的な指示を直接受け、X社の車両、工具、資材等を使用していたものと認められると認定し、本件事故は、Yが、まさにX社の従業員からの指示を受けて、廃材を処分場まで運搬するため、X社の所有する車両を運転している際に生じたものであって、YのX社に対する損害賠償責任については、直接の雇用関係がある場合と同様に、上記最高裁判所第一小法廷昭和51年7月8日判決の理が妥当するものというべきであるという旨を示しました。
その上で、
①X社の所有する車両の数と当時の現場の件数に照らすと、トラックに支障が生じた場合には、代車が必要となる可能性が相応にあったのにもかかわらず、X社は、車両保険において代車補償を対象外としていたこと等、
②Yは現場作業員であり、X社の従業員から直接指示を受けて解体作業や廃材の運搬に従事していたのであって、当時の給与収入は多額ではなかったこと、
③使用者であるX社においては、自動車保険に加入することで損害の填補を受けたり、賠償責任を免れたりすることができるのに対し、被用者であるYにおいて、そのような保険に容易に加入することができたとはにわかに認め難いこと、
④Yの惹起した事故は比較的単純な自損事故である上、その際、Yにおいて、酒気帯び運転や大幅な速度超過その他の著しい過失があったとまでは認められないこと
などの各事実を認定し、上記3の結論(「賠償を請求することができる範囲は、信義則上、その損害額の10%を限度とするのが相当である。」)としています。
5 以上の判示内容については、そもそも本件YがX社の被用者(従業員)でないとしても、実際の事実関係から「直接の雇用関係がある場合と同様に」扱うべきとされていることで、形式論にとらわれずに、損害の公平な分担の見地に立って判断を行う立場であることが色濃く出ていると思います。
そして、事実関係の詳細な認定から、賠償を請求できる範囲の限定の結論につなげていますが、このことは、「損害の公平な分担」の前提となる事実関係について、効果的な主張立証の重要性を物語っていると感じます。
事案ごとの特性を裁判所に十分考慮してもらえるような訴訟遂行の必要性については冒頭の以前のコラムでも述べましたが、そのことを改めて感じさせる事案であると受け止めています。
以上
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