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窃盗犯Lの思い出と外国人の刑事弁護について

渡邉 清

 Lは、南米のC国国籍の外国人で、私が、Lの逮捕直後から第1審判決に至るまで、国選弁護人として弁護活動をした被疑者、被告人です。

 Lは、合計7件の窃盗で起訴され、公判も6回に及んだことから、私とLは、約8か月間の長い付き合いとなりました。

 Lは、C国では、日本の税理士あるいは会計士のような仕事をしていたとのことですが、C国の経済状態はよくないため、そのような仕事をしていても、常時仕事があるわけではなく、美人の妻とかわいい子供達の家族を抱え、生活は苦しかったようです。

 そのような状況下で、Lは、日本に行って金を稼がないかとの誘いに乗って来日し、窃盗団に入る羽目になり、高級住宅街などの民家を狙った侵入盗に関与し、逮捕、起訴されたのです。

 Lは、C国での仕事からも推察されますが、なかなかの教養人であり、Lの求めに応じて私が差し入れた、スペイン語訳の村上春樹の小説を読み、大変面白いと言っていました。

 また、Lは、大のサッカーファンであり、私が、ワールドカップで大活躍したC国の選手の名前を出し、いい選手だと言ったところ、大喜びをしてくれました。

 Lは、留置場では落ち込むこともありましたが、元来、素直で明るく親しみやすい性格だと思われ、私との付き合いが長くなったので、私のことを大変信頼してくれておりました。

 それで、ある時期からは、接見の度に、「先生が弁護人でよかった。」「先生、ありがとう。」などと言ってくれるようになり、嫌なこともままある国選弁護人の仕事も、Lに関しては、楽しく前向きにこなすことができました。

 ここからは、外国人の刑事弁護について、Lの事件を参考に述べます。

 外国人の場合、接見でのやりとり等は原則的に通訳を介することになります。

 Lの母国語はスペイン語であり、私が国選弁護人に就任した時点から、Nさんという通訳が就いてくれました。

 Nさんは、ブラジル国籍でしたが、母国語のポルトガル語のほかスペイン語、英語が堪能な方で、刑事事件の通訳人の経験も豊富であったことなどから、通訳は大変スムーズであり、私とLの意思疎通もまたスムーズにできました。

 Nさんは、気さくで人柄もよく、日程さえ合えば、嫌な顔一つせず、警察でも拘置所でも出向いて通訳をしてくれました。

 国選弁護人の場合、よい通訳に当たるか否かは運まかせのところもありますが、よい通訳に当たることが、よい弁護活動につながることは間違いないと思います。

 Lの弁護活動として、まず問題となったのは、Lが、当初、「私は盗みをやっていない。」と弁解していたことです。

 というのは、Lは、窃盗団の中では、見張り役をしており、一度も住居に侵入して窃取行為に及んでいなかったからです。

 とはいえ、Lは、仲間が侵入盗に及んでいることは分かっており、被害金品の分け前にもあずかっていたので、窃盗の共犯であることは否定できませんでした。

 そこで、私は、Lにそのことを理解させるため、次のようなやりとりをしました。

 私「子供のころ、嫌いな学校の先生はいませんでしたか。」
 L「いました。」
 私「その先生に、友達と一緒にいたずらをしようとしたことはありませんか。」
 L「あります。」
 私「じゃ、そのとき、友達とくじ引きをし、はずれを引いた友達が1人だけで先生にいたずらをしたとします。その友達以外は、いたずらしておらず、見ていただけでした。いたずらをしなかった友達は、後で先生に怒られませんか。」
 L「怒られると思います。」
 私「それと同じようなことで、日本の法律では、窃盗団の仲間になっていれば、盗みをやっていなくても、やったのと同じように扱われることがあります。分かりますか。」
 L「分かりました。」

 以上のようなやりとりを経て、Lは、窃盗を認めることを受け入れ、私は、情状弁護に絞って弁護活動をしていくことになりました。

 財産犯の情状弁護においては、最重要なことは言うまでもなく被害弁償です。とはいえ、Lが関与した窃盗の被害総額が約1800万円に上り、Lが受けた分け前は約500万円に上っていたので、その分け前相当額の被害弁償も困難な状態でした。

 それでも、可能な限りの被害弁償をすれば、量刑上Lが有利になることは間違いないので、私は、Lの妻と連絡を取り、Lが家族のために送金した分け前のうち、できるだけ多くを日本に送り返すよう頼み、合計約150万円を送り返してもらい、被害弁償に充てました。

 その際、妻との連絡にはメールを使用し、簡単な連絡であれば、翻訳アプリの「グーグル翻訳」を使用し、妻宛のメールを作成し、妻からのメールを読みました。重要な連絡の場合は、送受信するメールをNさんに翻訳をしてもらいました。

 また、送金は、アメリカの送金サービス会社である「WESTERN UNION」を使用しました。

 同社の送金サービスは、簡単、迅速で被害弁償に大いに役立ちました。

 さらに、被害者の1人が、夫からプレゼントされて大事にしていた高級ブランドのバッグをLらに盗まれて憤慨しているが、それがLからのプレゼントとしてLの妻のもとに送られているということが分かったので、妻と連絡を取り、送り返してもらって被害者に返却しました。

 返送には、「DHL」の宅急便を使用し、私が受領後、開披しないまま警察に持ち込んで、警察官のもとで開披し、バッグを確認後、被害者に還付されたい旨の申述をして警察に任意提出しました。

 かような被害弁償の結果、一部被害者からは、Lに対する寛大処分の上申書をもらうことができました。

 私は、弁論において、執行猶予判決を求めましたが、上記のとおり被害総額が高額に上っていたことなどの事情から、裁判所は、Lに対して実刑判決を言い渡しました。

 ただ、検察官の懲役5年の求刑に対し、懲役3年8月とした上、170日の未決勾留日数を刑期に算入してくれたので、大きな減軽が得られたと言っても過言ではないと思っています。

 判決後、Lは、実刑となったことに対しては不満そうにしていましたが、最後は、いつもどおり、私に感謝の言葉をくれ、控訴をせずに服役しました。

 このようなLとの約8か月間の付き合いは、長年検察官を務めてきた私にとって大変面白く貴重な体験でした。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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