弁護士コラムバックナンバー

仮想通貨をめぐって

高木 篤夫

■仮想通貨の概略

昨今話題にのぼっている仮想通貨は, 2008年サトシ・ナカモト名義で公表された「ビットコイン:P2P電子マネーシステム」という論文から始まる。

この仮想通貨bitcoinは,次のような技術的特徴をもっているものとされている。

・P2Pネットワーク(多数のネットワーク参加者(ノード)が情報共有することで,データの堅牢性をもたせることができる)

・公開鍵暗号技術(公開鍵によってブロックチェーン上でウォレットを特定でき,仮想通貨自体の移転には秘密鍵が必要)

・ウォレット(電子財布)

・ブロックチェーン技術(分散型台帳)

・Proof of Work → mining(仮想通貨の移転履歴の検証により承認作業をする。このとき最初に承認作業に成功した者に新規のビットコインの発行をすることで,承認作業のインセンティブをもたせる)

・BITCOINの発行総数 2100万として設計され,新規発行数は4年ごとに半減(2140年に2100万BTCに達する)

仮想通貨の利点のひとつは,ブロックチェーンによって資金の流通を透明化させることができ,また資金の送金が短時間でかつ低廉な費用で行うことができることにある。

仮想通貨の技術は,ブロックチェーン技術が中核といってよいと思われるが,ビットコインは上記の技術を組み合わせて国家が管理しない流通させる価値としての機能をもたせた点に新規性と発展可能性を見いだせるということができる。

現在は,流通する仮想通貨は,約1500種類以上存在すると言われているが(国内仮想通貨交換事業者で取り扱われているのは10数種),日本の仮想通貨交換事業者が取り扱う仮想通貨は仮想通貨の多くはこのビットコインの仕組みの一部の採用または応用をすることで設計されているようである。

■資金決済法による法規制

インターネット上で流通するビットコインをはじめとする仮想通貨が報道等でも頻繁に取り上げられるようになって社会的にも仮想通貨を認知するようになってきた。他方,仮想通貨がマネー・ロンダリング(資金洗浄)に使われたり,テロ資金に流用されるなどの国際問題にもなっていたため不正利用防止の国際的要請が生じていた。そこで,イノベーションの推進と利用者保護のバランスを図るため仮想通貨を決済手段の一つとしてとらえて資金決済法に取り込む形で規制をすることとした。資金決済法では,仮想通貨を定義するとともに,仮想通貨の売買・他の仮想通貨との交換や媒介・管理等を行う仮想通貨交換事業者の登録制を定めるとともに登録された仮想通貨交換事業者に一定の業規制を設けた(仮想通貨を法制度の中で規定したのは,日本が最初である)。

資金決済法によれば,「仮想通貨」とは,(1)物品購入・サービス提供を受ける場合に,代価の弁済のために不特定の者に対して使用できるもので,かつ,不特定の者を相手方として購入及び売却ができる財産的価値で,電子情報処理組織(たとえばインターネットなどの電子的な記録が可能なコンピュータネットワーク)を用いて移転できるもの,(2)不特定の者を相手方として(1)と相互に交換を行うことができる財産的価値で,電子情報処理組織を用いて移転できるもののいずれかをいうものとされている(同法2条5項)。

同法の規制対象となる「仮想通貨交換業」は,(1)仮想通貨の売買または他の仮想通貨との交換を行うこと,(2)(1)の媒介,取り次ぎまたは代理を行うこと,(3)(1)(2)に関して利用者の金銭または仮想通貨の管理を行うこと(同法2条7項)のいずれかを業として行なうこととされる。仮想通貨交換業は,登録を受けた者のみが行うことができるものとされ(同法63条の2),登録された仮想通貨交換業者は,資金決済法の適用を受けることとなる(同法2条8項)。

法改正に伴って,経過措置として法施行から6カ月は登録の猶予が与えられ,2017年9月30日までは登録なくして仮想通貨交換業を営むことができたが,同日までに登録申請をすれば登録審査中はみなし登録業者として仮想通貨交換業にかかる規制を受けながら営業することができる(附則8条)。なお,2018年1月に仮想通貨NEMの流出事故を起こしたコインチェック社は登録審査中であった(当時,登録事業者は16社,現在みなし登録業者は16社)。改正資金決済法施行と同時に犯罪収益移転防止法にも仮想通貨交換業者が規制対象として加えられている(同法2条2項31号)。

仮想通貨取引は,仮想通貨のウォレット(仮想通貨の電子財布で,アドレス(公開鍵)と秘密鍵を管理している。銀行口座と暗証番号をイメージしてもらえばよい)を保有している仮想通貨交換事業者以外の当事者同士の相対取引よりも仮想通貨交換事業者を通じた交換取引または仮想通貨交換業者から直接購入するという方法による取引が多いものと思われる。資金決済法は,仮想通貨交換事業者に顧客資産と自己資産との分別管理(同法63条の11),情報の安全管理措置(同法63条の8),利用者に対する情報提供義務(同法63条の10)などにより一定の利用者保護を与えている。しかし,仮想通貨の取引自体は,現在直接的な法規制はないものといえ(金融商品取引法が規定する金融商品等規制には仮想通貨を組み込んだ集団投資スキームが該当することがありうるが,仮想通貨自体は金融商品等に該当しない。),投資・投機の対象として取引される場合の利用者保護としては十分とはいえない。

■仮想通貨の法的課題は多い

マウントゴックス事件に始まり,コインチェックのNEM流出事件など,仮想通貨取引の仕組み自体には,まだまだ解決すべき課題がある。

法適用の場面でも,仮想通貨の法的性質(マウントゴックス事件に関して,東京地裁平成27年8月5日判決は,所有権の対象ではない旨判示している),財産権としての法的手続上での取扱(仮想通貨に対する民事執行の可否,方法等),資金決済法を適用するだけでは十分に解決できない法的検討課題は山積している。

仮想通貨交換業者は、利用規約において、ブロックチェーン利用者の求めに応じて、預託を受けた金銭又は仮想通貨の払戻しをすることを約束しているのが一般的であり,仮想通貨交換業者と利用者との関係ではもっぱら契約によって規律されている。

ハッキング等によって、ブロックチェーン上の記録と、仮想通貨交換業者が管理する個々の利用者の仮想通貨の残高の記録が整合しなくなった場合には、利用者は、払戻請求権を行使することができず、仮想通貨交換業者に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることになろう。ただし仮想通貨交換業者に何らの帰責性が認められない場合や、有効な免責規定が適用される場合には、規約によって利用者の損害賠償請求権の行使が制限されることもありうる。

ブロックチーェン技術自体は,きわめて有望な技術だと思われる一方で,仮想通貨自体への評価が定まらない中で仮想通貨に対する各種事件によるイメージの低下や投機対象とされていることへの批判など,仮想通貨自体は,どのように発展するのか,衰退するのか見通せない状況が続いている。

コインチェック事件を経て,金融庁では「仮想通貨交換業等に関する研究会」(平成30年4月より)において,今後の制度的対応を検討している。仮想通貨やブロックチェーン技術の利用について各所で議論・検討されているところであり,今後の法的検討及び立法に注目するところである。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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