弁護士コラムバックナンバー

「注目の争点」その後(2)

小川 隆史

1 これまでに私が担当した当サイトの弁護士コラムでは,「注目の争点」,「『注目の争点』その後」というタイトルで,「金融機関による貸付に際し信用保証協会の保証がなされた後に,主債務者である借主が反社会的勢力に該当することが判明したときの保証契約の有効性」という争点について2回書かせて頂きました。それぞれ,当該争点において下級審の判断が見事なまでに分かれていること,そのような状況でついに最高裁判所の判決が下されるに至ったことをご紹介しています。

 その後,当該争点に動きがありましたので,今回も続けてご紹介させて頂きます。

2 当該争点においては,信用保証協会が,主債務者が反社会的勢力に該当することを知らずに金融機関と保証契約を締結した場合,信用保証協会の保証するとの意思表示には要素の錯誤があり,保証契約は無効となるのではないかが問題とされていましたが,最高裁第三小法廷は,平成28年1月12日に,当該争点が争われた4つの異なる事件についてそれぞれ判決を下し,当該争点に関する結論としては,いずれも,信用保証協会の保証契約の意思表示には要素の錯誤がないとして,信用保証協会による錯誤無効の主張を否定しました。

 ただ,最高裁は,4件のうち3件については,錯誤無効以外の信用保証協会の保証債務の免責の抗弁等について更に審理を尽くさせる必要があるとして破棄差戻しとし(4件の中で扱いが異なるのは当事者の主張との関係によります。),そのうちの1件では,金融機関と信用保証協会の基本契約において信用保証協会の免責を定めた条項にいう「(金融機関が)保証契約に違反したとき」との関係で,主債務者が反社会的勢力であるか否かについては,「一般的に行われている調査方法等に鑑みて相当と認められる調査をすべき」金融機関と信用保証協会の調査義務を認め,金融機関がこれに違反してその結果保証契約が締結されたといえる場合には,金融機関が「保証契約に違反したとき」に該当するとして,信用保証協会は当該免責条項により保証債務の履行の責めを免れるというべきであるとの言及をしていました。

 その後,上記最高裁判決の差戻し後の控訴審判決が下されたという次第です。

3 東京高等裁判所平成28年8月3日判決は,免責条項にいう「(金融機関が)保証契約に違反したとき」に該当するかについて,次のような判断を示しました。

 「本件貸付け当時,控訴人(注:金融機関。以下同じ)においては,規程及びマニュアルを定め,反社会的勢力に組織的に対応する態勢を整備し,その一環として各部店において相手方が反社会的勢力であるか否か十分注意し調査するよう注意喚起するとともに,各部店において随時収集した反社会的勢力に関する情報を一元的に集約してデータベースを構築し,特防連から提供される情報と併せてイントラネットで各部店長が閲覧できるようにし,融資に当たって活用する取組を行っていたところ,本件貸付けの審査の過程でAが反社会的勢力であることを疑わせるような事情はなく,また,データベースによる確認においても該当しなかったというのであるから,政府関係機関の指針等の内容に照らしても,控訴人は,その時点で一般的に行われている調査方法等に鑑みて相当と認められる調査を行ったものと認められ,控訴人がかかる調査義務に違反したとは認められない。」

 4 当該判決は,最高裁判決の示した,「その時点で一般的に行われている調査方法等に鑑みて相当と認められる調査をすべき義務」の違反について,具体的事情を検討してこれを否定しています(なお,その他に破棄差戻しとされた2つの事件の差戻し後の控訴審判決も同様の判断を行っています)。

 ただ,「その時点で一般的に行われている」調査方法等が問題となっていますので,それ自体事案ごとに可変的であるといえますから,どのような社会状況を前提として起こった事案であるかによって結論は異なり得ると思われます。

 また,最高裁は,金融機関に調査義務違反があった場合,信用保証協会は当該免責条項により保証債務の履行の責めを免れるというべきであるとしているため,調査義務違反が認定された場合には信用保証協会が免責される範囲が問題となり得ますが,上記差戻し後の控訴審判決では,調査義務違反を否定したため,この点についての判断は示されていません。

 したがいまして,今後は,金融機関の調査義務違反が認定される事案が出ないか,その場合,信用保証協会が免責される範囲はどこまでか,という点が引き続き注目されるといえます。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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