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厚生年金保険法の個別指図禁止と現実の狭間

藤原 宏高

 厚生年金保険法は平成25年度に成立した「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」(以下「改正法」という)によって、厚生年金基金(以下「基金」という。)に関する部分は全て削除された。改正前の厚生年金保険法の下では、基金は、「加入員の老齢について給付を行ない、もつて加入員の生活の安定と福祉の向上を図ることを目的」(旧厚年法第106条)として設立され、年金給付等積立金(以下「積立金」という)は積み立てなければならず(第136条の2)、かつ、積立金の自家運用は例外とされ、積立金を運用することが義務付けられていたのである(第136条の3)。

すなわち、基金の資産運用は,原則として委託運用(個別指図禁止)が義務付けられていたが、現実には何が起こっていたのか。多くの基金が代行割れをおこし、改正法により、事実上、厚生年金基金制度は崩壊したのである。

もちろん基金が代行割れを起こした原因は一様ではなく、リーマンショックによる運用成績の悪化も一因であろうが、オルタナティブ投資が認められたことを契機として、一部の基金によってリスク性の高い海外金融商品等への投資が集中的に行われたことも一因であるものと思われる。

AIJ投資顧問事件が発覚したことにより年金喪失問題として報道されたところによれば、運用会社側から基金関係者側への過度な接待や賄賂攻勢等があり、これを受けて基金側が特定の金融商品への投資に事実上同意していたのではないか。

もちろん、AIJ投資顧問事件は、投資顧問業者そのものが詐欺事件として立件された特異な事件であるとしても、そもそも基金が運用に事実上同意すれば、実際に投資を指図する投資顧問業者や投資を受託した信託銀行は免責されるのであろうか。

投資顧問業者や信託銀行の受託者責任は法によって明記されていたのではないか。要は、法の予期しないところで、基金の年金資産が本来あるべき姿を超えて、リスク性の極めて高い金融商品等に集中投資されていた実態に目を向けるべきではないだろうか。

このような法と現実との乖離は、誰がどのように判断するべきか極めて困難な問題を提起している。

以上

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