弁護士コラムバックナンバー

ステルスマーケティングの問題点と規制の課題

高木 篤夫

1 わかりにくい広告手法の広がり

 広告については,不公正な取引誘引行為として話題となることが多くなっています。検索エンジンの検索結果とともに表示される広告や,ネイティブ広告といわれる記事と一体化した広告など,中には検索結果や記事・コンテンツであるのか広告であるのかがわかりにくかったりすることがあります。こうした広告は,一応広告であることは表示はされているものの,一般消費者が広告であるという認識をしているのかが疑わしいというものもみられます。

 ステルスマーケティングとは,「消費者に宣伝と気づかれないようにされる宣伝行為」を指します。事業者が関与しているのかが一般消費者には表示上わからないものです。

 昨年も「広告と消費者法」が日本消費者法学会の大会テーマとなりましたし,8月末にも,事業者の従業員がその身分を隠してインスタグラムのインフルエンサーとして宣伝行為をしていたことが話題になりました。

2 日本弁護士連合会の意見書

 このステルスマーケティングについて,2017年2月に日弁連では「ステルスマーケティングの規制に関する意見書」をとりまとめました。

 その内容はいわゆる景品表示法の告示指定に次のような内容を加えるべきというものです。

 「1 事業者が自ら表示しているにもかかわらず,第三者が表示しているかのように誤認させるもの

2 事業者が第三者をして表示を行わせるに当たり,金銭の支払その他の経済的利益を提供しているにもかかわらず,その事実を表示しないもの。ただし,表示の内容または態様からみて金銭の支払その他の経済的利益が提供されていることが明らかな場合を除く」

 いわゆるステルスマーケティングについての規制を景表法の中でなすべきだということを提言しています。

3 意見書で規制すべきとしたステルスマーケティング

 この意見書の第1の規制は,「なりすまし型」のステルスマーケティング規制です。事業者が第三者が中立的に口コミサイトなどに書き込んだ評価のようにみせたりして宣伝をする場合をステルスマーケティングの一類型として規制すべきだとしました。

 第2の規制は,「利益提供秘匿型」といえるものです。これは,事業者が第三者に金銭を払うとか商品を無償提供するなどの経済的利益を提供しているのを秘してその商品についての評価等を表明してもらっているにもかかわらず,そのような経済的利益の提供があることを秘匿している場合です。これもステルスマーケティングの一類型として規制すべきだとしました。

 中立的な第三者や専門家,有名人などが特定の商品やサービスを推奨したりすれば,消費者はそのような意見を商品・サービスを選択する際に参考にすることが多いといえます。中立的第三者か事業者が頼んだ人が評価を述べているかで,参考にする度合いは異なるというのは一般的な認識だと思います。

 ところが,ステルスマーケティングは,中立的な評価のようにみせながら実は第三者になりすましていたり,利益提供をして宣伝してもらったりということをして宣伝であることを消費者に悟らせないようにして欺まん的な宣伝しています。これは,商品・サービスの選択を誤らせる一因となります。消費者を騙して商品やサービスを売り込む行為をすることで消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害する行為ですし,公正な市場の秩序を乱す行為であるといえます。

4 日本におけるステルスマーケティング規制の現状

 日本では,一般的な広告規制としては景品表示法による規制があり,2012年2月にもこのコラムで,「口コミサイトとステルスマーケティング」と題して,消費者庁が公表した平成23年10月23日付けの「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」で消費者庁のステルスマーケティングの扱いについて紹介しました。

 景品表示法は,基本的に商品・サービスが実際よりも優れていると誤認させる「優良誤認」か実際よりも取引条件が有利だと誤認させる「有利誤認」の表示をした場合を不当表示として規制しているものです。ステルスマーケティングによる宣伝行為が優良誤認や有利誤認にあたれば景品表示法違反となるというのが消費者庁の見解です。しかし,これではステルスマーケティングを抑制するには十分ではありません。そこで,日弁連の意見書では,景品表示法は優良誤認・有利誤認以外にも問題となる分野では告示指定をされたものについても表示規制対象とできるということになっているので,この仕組みの中でステルスマーケティング自体の規制をしていくことが可能であると考えて提言したものです。

 広告を掲載するメディアなどの自主的なステルスマーケティング抑制の取り組みもありますが,自主規制は個別の企業や業界団体が行うという限界があります。

 海外では,米国ではFTCは,事業者が利益供与を行った場合には,そのことを表示しなければならないこととしていますし,EUでも「不公正取引行為指令」によって事業者が金銭を支払って記事を書かせて宣伝に利用することを誤認惹起取引行為のひとつとして禁じ,この指令に基づいてEU各国での国内法が制定されているというようにステルスマーケティングに規制を加えています。米国,EUでもステルスであることを欺まん的として規制しているので,関係性を明らかにして宣伝することは禁じているものではなく,過剰な表示規制ということもいえないと思われます。事業者にとっては公正な競争のルールとして整理・認識すべきものと思われます。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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