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Brussels Privacy Hub主催,Summer Academy for Global Privacy Lawの紹介

板倉 陽一郎

 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号,以下,「個人情報保護法」という。)を始めとする個人情報保護法制に関する法律実務に対応するためには,欧州一般データ保護規則(GDPR)の理解が欠かせない。

 実際に日本企業がGDPR対応に直面する機会がしばしばあることの他,日本と欧州は個人情報保護制度に関して相互認証(欧州委員会からの十分性認定,日本の個人情報保護委員会からの同等性の決定)を行っており,日本法の改正,運用にあたってはGDPRが意識されている。

 個人情報保護法の2020年改正,2021年改正においても具体的な影響が現れており,2020年改正における開示請求の電子化,利用停止請求の拡大,域外適用の拡大,2021年改正における学術研究例外の精緻化など,枚挙に暇がない。

 GDPRの影響は欧州に留まらず,欧州地域以外の立法においても確実に参照されている。

 GDPRについて理解しておくと,これらの新規立法の理解にも資する。

 他方で,GDPRは欧州法であり,近年では有益な日本語文献も複数出版されているものの,日本の弁護士は基本的には日本法の訓練を受けているものであるから,自らの理解が正しいのか,不安になるところもある。

 そこで有益なのが,Vrije Universiteit Brussel (ブリュッセル自由大学)のデータ保護法の研究所であるBrussels Privacy Hubが主催する,Summer Academy for Global Privacy Law である。

 これは,2015年からEuropean Data Protection Law Summer Schoolとして,2020年以降は現在の名称で開催されているデータ保護法の夏季集中講義(有料)であり,筆者は2020年に受講の機会を得た。

 5日間,現地時間で9時から17時までのまさに集中講義である。

 残念ながら2021年の募集は終了しているものの,2021年のプログラムの紹介によれば,リアルワールドにおける世界的なデータ流通(The real world of global data flows),欧州のデータ移転メカニズム:十分性認定,標準契約約款,行動規範等を含む適切なセーフガード(EU mechanisms for data transfers: adequacy decisions, appropriate safeguards incl. standard contractual clauses, codes of conduct, etc.),ブレグジット後のデータ流通(Post-Brexit data flows),欧州評議会第108条約+と世界的な制度収斂(Convention 108+ and global convergence),法執行のための越境データアクセス(Cross-border access to data for law enforcement purposes)等が含まれる。

 筆者が受講したところによると,GDPRの基本的な解釈から,最新のトピックまで,極めて興味深い話題が展開される。

 講師陣がまた豪華であり,2021年のプログラムでは,Brussels Privacy Hubの所長Christopher Kuner博士は最も著名なGDPRの逐条解説書の一つである”The EU General Data Protection Regulation (GDPR) A Commentary”(Oxford University Press, 2020)の筆頭著者であり,GDPRの権威の一人である。

 また,欧州データ保護監察官(EDPS)その人であるWojciech Wiewiórowski博士や,日本との十分性認定に関する対話の責任者でもあった,欧州委員会司法消費者総局国際データ流通及び保護課長Bruno Gencarelli 氏の講義も予定されている。

 受講生は履歴書,受講理由等で数十名に絞られる。

 人種,地域,職業のいずれも多様であり,筆者が受講した2020年には,弁護士,研究者の他,国際機関職員等も含まれた。

 日本人も複数いたが,受講生のバランスは取っているようである。

 2019年までは現地ブリュッセルで開催されていたが,2020年以降,COVID-19の影響でオンライン開催となっている。

 勿論,旅行を兼ねてブリュッセルに赴くのも楽しい体験であろうが,オンライン開催は千載一遇の機会であり,短期とはいえ勉強のために事務所を空けられない弁護士が受講できるのは誠にありがたかった。

 もっとも,欧州時間で9時~17時ということは日本時間では16時~24時となり,当然英語での受講となるので,体力的には過酷である。

 オンライン受講かつ世界的なパンデミック下なので,終了後に他の受講生と一杯引っ掛けるというわけにもいかず,受講期間中は次の日の仕事と予習を抱えて力尽きて寝るほかない。

 それでも,最高級の実務家や研究者からの欧州データ保護法の集中的な講義は極めて有益であった。

 このように,Summer Academy for Global Privacy Lawは大変おすすめである。

 いつまで,オンライン開催が続くのかはウイルスのみぞ知るというところではあるが,来年度以降,オンサイト開催であっても,オンライン開催であっても,日本から是非積極的にご参加されたい。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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