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反社会的企業のホワイト化

石田 英治

 現在、第二東京弁護士会の民事介入暴力対策委員会委員長を務めております。当委員会の活動領域は極めて広範ですが、近時、注力している活動の1つに、「企業のホワイト化」というものがあります。ほとんどの人が耳にしたことがない言葉だと思いますが、これは反社会的勢力ないしその関係者と認定され、取引から排除されている企業を浄化し、社会から健全な企業と認めてもらう手続を言います。対象となる企業は、真実反社会的であった企業(ブラックな企業)の他、実際には反社会的ではないにもかかわらず反社会的であると疑われている企業(グレーな企業)も含んでいます。ここ数年、世の中ではコンプライアンスの意識が浸透し、反社会的な企業は積極的に取引から排除されるようになり、それ自体は望ましいことだと思いますが、反面、「疑わしきは排除」の傾向も強まり、本来排除しなくてもよい企業が排除されたり、あるいは、いったん排除された企業が反社会的勢力との関係を断ち切っても復活できずに排除され続けたりするような事態を目にするようになりました。このような企業を救済する方法がホワイト化ということになります。

ホワイト化の代表例としては、九州のある建設会社の話がよく取り上げられます。この企業は、資金繰りのため代表取締役が幼なじみの暴力団関係者から借入れを行っていたため、県警から「暴力団関係者と社会的に非難される関係を有している」と認定され、県は同社に対して公共工事からの指名停止措置を行い、国土交通省九州地方整備局も公共工事からの排除措置を行いました。金融機関も新規融資を拒絶し、一部業者からは工事資材の納入も止められました。その後、同社は再建のため、県の民暴委員会に所属する弁護士に相談し、暴力団との関係を完全に断ち切ることとし、原因を作った代表取締役を退任させるとともに、全従業員に暴力団排除の講習を継続的に受講させ、顧問弁護士・税理士を置き、取引先チェックを行わせるなど暴力団排除を徹底しました。この一連のプロセスには民暴委員会弁護士が関与し、最終的に調査報告書を作成し、県警に提出しました。その結果、県警はその調査報告書の結論を是認し、県は指名停止措置を終了し、九州地方整備局も同社への排除措置を取り消すに至りました。

ホワイト化というと何か特別な手法のように思われるかもしれませんが、上記の実例を見ていただければ分かるとおり、企業不祥事の対応方法の一類型ということが言えます。企業の不祥事には様々なものがあり、例えば、粉飾などの会計不祥事や各種の偽装が問題となるようなケースなどこれまで数多くの事例が報道されてきました。その不祥事対応の方法として近時よく用いられるのが第三者委員会です。外部の弁護士、会計士、有識者等によって構成され、①事実調査、②原因究明、③再発防止策・改善策の策定、④外部への公表、⑤責任追及のプロセスを経るのが一般的であり、この点は、日本取引所自主規制法人が平成28年2月24日に公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」でも記されています。上記の建設会社も同様の手続を執り、社会の信頼を回復しました。

企業のホワイト化という手法は、まだ社会では十分に認知されておらず、実例は多くはないのですが、昨年は、餃子の王将で有名な株式会社王将フードサービスが第三者委員会による調査報告書を公表し、注目を集めました。私自身はこれまで排除される側ではなく主に排除する側で反社会的勢力対策に関わらせていただいており、実際に多くの排除事例に接してきましたが、「ホワイト化」をした企業はほとんど聞いたことがありません。個人や企業が再チャレンジできる環境は社会の活力にとって重要であり、排除される側に立って「ホワイト化」を行うことも社会的に有意義な取り組みだと考えています。民暴弁護士のノウハウが活かせる業務分野でもあり、各所でその意義をアピールしているところです。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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