弁護士コラムバックナンバー

やり直しのできる社会

山田 康成

 文化的な素養がない私は、ほとんど映画を観ることはないのですが、珍しく今年の2月は、2本の映画を観ました。

 なぜかというと、ヤクザ映画が2作品相次いで公開されたからです。

 ヤクザ映画と言っても、その内容は、いずれもヤクザを辞めて、堅気として生き直そうとする主人公の姿を描く映画です。

 私は、弁護士会の民暴委員会で、暴力団を社会から排除する活動をしているとともに、暴力団離脱者の社会復帰支援の取組みや、刑務所の篤志面接委員の活動をしていることから、これは観なければと思い、観てきました。

 一つの映画は、「ヤクザと家族 The Family」。

 綾野剛さんが演じる家族を失った若者が暴力団に加入し、暴力団の抗争に巻き込まれ、刑務所に入っている間に、暴排条例の施行により、出所した後の暴力団は様変わりし、暴力団を辞めて生き直すことを試みるも、暴力団を辞めても5年間は取引制限がかかる「5年ルール」の存在や、周りの厳しい目から、社会復帰がままならない現状を正面から取り上げています。

 もう一つは、「すばらしき世界」。

 役所広司さんが演じる殺人を犯した元暴力団員が、刑務所から出所した後、今度こそやり直そうとするものの、世間からなかなか受け入れてもらえない現実と、昔の考え方からなかなか抜け出せなかったりする自分の内面との葛藤、主人公の立ち直りを応援する人たちの姿に焦点を当てています。

 いずれの映画にも共通するのは、人には「居場所」が必要だということを示している点です。

 いずれの主人公も、かつては、自分の居場所を「暴力団」に求めたが、「暴力団」を辞めた後、社会で、自分を受け入れてくれる「居場所」を求めている姿を描いています。

 かつて暴力団で好き勝手に活動し社会に迷惑をかけていた者を、支援する必要があるのか、他にももっと困っている人がいる等、色々な意見があるもの事実です。

 しかし、暴力団は社会から排除しなければならない存在だとしても、暴力団を辞めた離脱者を、社会が受け入れなければ、結局、元の暴力団に戻ったり、また、闇社会で活動するようなことがあったりしては、安全・安心な社会を実現することはできません。

 やり直したいという意欲ある人に対しては、やり直しできる社会を作ることも必要だと思います。

 色々な意見があり、なかなか難しいテーマではありますが、暴力団離脱者の社会復帰という地味なテーマを取り上げた映画が相次いで公開されたことをきっかけに、多くの人が、この問題を考える機会になってもらいたいと思っています。

 二つの映画を観て、私は、少し嬉しい気持ちになりました。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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