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弁護士業務の妨害について

石田 英治

 私が所属する日本弁護士連合会と第二東京弁護士会には多数の委員会があり、そのうちの1つに業務妨害対策委員会があります。企業が営業活動を妨害されたり、一般の方が私生活を妨害された場合、被害者の方から弁護士が依頼を受けて代理人となり、妨害者を相手にすることはよくありますが、最近は、弁護士自身が妨害を受けることも少なくはなく、そのような弁護士業務の妨害行為に対する対策を専門とする委員会が業務妨害対策委員会です。私は現在、日本弁護士連合会と第二東京弁護士会のそれぞれの業務妨害対策委員会で副委員長を務めています。

弁護士に対する妨害行為が近時目に付くのは、離婚やDV(ドメスティックバイオレンス)事件です。反社会的勢力による不当要求であれば、加害者は基本的には損得の利害で動いているため、毅然とした対応をして利益獲得が不可能と思わせれば、自然と止むことも多いのですが、離婚やDV事件では、相手方配偶者に対する支配欲を他人である弁護士に妨げられることに我慢できず、損得抜きで感情を剥き出しにして弁護士に襲いかかってくることが多くあり、そのような場合、対応が極めて困難となり、過去には弁護士が殺されてしまった悲惨なケースもあります。委員会では、複数の弁護士がチームを組んで受任することを推奨しており、また、事務所のセキュリティーについても助言をしております。

また、弁護士業務妨害事件で印象的なのは、弁護士が依頼者や相手方から事件処理のミスに関して難癖を付けられて不当要求に屈してしまい、本来支払う義務のない金員の提供に応じてしまうケースが意外に多いことです。その結果、妨害者が味をしめて執拗に何度も不当要求を繰り返し、被害弁護士の業務や生活に支障が生じるようになって、事件が表面化してしまうのです。若手の弁護士だけでなく、相応の経験のある弁護士でもそのようなケースはあります。おそらく、被害弁護士も自分が依頼者から相談を受ければ、「不当要求に屈してはいけない。毅然とした対応をすべき。」と助言しているはずです。何故自分が不当要求の対象になると弱気になってしまうのかと考えると、おそらく人は誰でも自らがトラブルに巻き込まれると冷静かつ慎重な判断ができにくくなるという傾向にあるのだと思います。立派な経歴を有し、周囲から優秀と評価されている企業経営者でも、企業不祥事の処理に関して判断を誤り、不祥事を隠蔽しようとして犯罪的な対応を選択してしまう例は多くあります。出来ることなら自分の恥は何とか隠したいと思うのは多くの人に共通する心理でしょうし、お金を払って恥を隠すことができれば、その方が良いと安易に考えてしまうのも容易に想像できます。しかし、リスクマネジメントという観点からすれば、最悪のリスクを排除するという点に重きを置くべきであり、ここで言う最悪のリスクとは、不当要求を拒絶して自分のミスが外部に知られてしまうということではなく、不当要求に屈した結果、何度も執拗に不当要求が繰り返され、金をむしり取られ続け、最終的にどうしようもならなくなって、事件が表面化して自分のミスも公になってしまうということです。事案によっては、自分がミスを隠蔽しようとした卑怯な人物という評価が世間に下されたり、ミスを隠蔽しようとして選択した犯罪的対応、例えば、文書の偽造等の揉み消し工作をしたり、妨害者にお金を支払うために依頼者の預かり金を横領したりした場合の刑事責任まで負担することになってしまうこともあります。現在のIT社会では業務上のミスや不祥事を隠し通すことは極めて難しく、確率論から見てもこのような選択は合理的とは言えないように思います。ミスや不祥事があっても毅然とした態度を取って隠そうとせず、きちんとした善後策を示すことができれば、傷も浅くすみますし、逆にリスク管理に長けた人物であると好意を持って受け止められることも多いと思いますが、自らがトラブルに巻き込まれると、法律の専門家である弁護士でも、なかなかそのような冷静な判断はできないようです。

弁護士業務妨害対策委員会での活動は、色々と考えさせられることが多くあり、本質的にはプロボノ活動ではあるものの、自らの弁護士業務を省みる良い機会にもなっています。

以上

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