債権回収のための預貯金の調査
これまで債権回収の仕事を多くしてきました。
10年程前まで整理回収機構の業務に関わってきたほか、銀行・サービサー・リース会社等の金融関連の依頼を多く受けてきました。
債権回収業務をしていてよく悩むのが、どうしたら債務者の財産、殊に預貯金を調べることができるかということです。
預貯金の調査は、それ程簡単なことではありません。
この点、国や公的機関は法律で強力な調査権が付与されていることが多いと思います。
例えば、整理回収機構では、100%親会社の預金保険機構が預金保険法に基づき特別の調査権限を有しているため、その強力な権限を行使して、悪質な債務者に対しては、銀行の資金移動を徹底的に調査することができ、隠匿財産の発見や財産の実態解明に大いに役立っています。
私も、過去に整理回収機構の仕事をしていた時には預金保険機構の調査により多額の債権回収を実現しました。
また、税金等の公的債権に関しても、強力な調査権限が認められています。
民間と比べ、国や公的機関は優遇されており、うらやましく思います。
もっとも、一方で民間の債権回収でも、昨年4月に改正民事執行法が施行され、債権者の権利が強化されました。
財産調査の方法も拡張され、債務者に対する罰則も重くなり、実際に活用する例も増えているようです。
金融法務事情2021年4月25日号の記事によれば、財産開示事件に関しては、東京地裁への申立件数(新受件数)は、以前は年100件台~200件台だったのが、令和2年度には539件と大幅に増加しているそうです。
また、第三者からの情報取得という新しい手続も認められるようになり、令和2年4月から同年12月までの9カ月間の東京地裁への申立件数は、708件にもなっているようです。
後者の手続に関しては、金融機関から債務者の預貯金の情報を取得することも可能であり、法改正の大きなポイントとされています。
債務者の預貯金を差押えるためには、金融機関とその支店を特定する必要があり、金融機関を特定しても、その全ての本支店を差押えの対象とすること(全店一括順位付け方式)は基本的に認められていません。
しかし、第三者からの情報取得手続によれば、特定の金融機関の全店舗の情報を取得することができますので、この点は大きな前進であるとは思います。
ただ、この調査によっても、対象となる金融機関は特定しなければならず、金融機関を特定しないで日本国内の全ての金融機関を調査の対象にするという申立はできません。
債務者が過去に取引をしていた金融機関を知っているなど特定の金融機関に当たりを付けるようなことが可能であればよいのですが、そうでない場合はどこの金融機関を調査の対象とするか判断に悩むこととなり、利用するのが難しいということになります。
そこで、民事執行法上の手段が使えなければ、他の手段による必要があり、この点は弁護士によってノウハウがあると思いますが、特定の金融機関に当たりを付けることができない場合に使う方法の1つとして、弁護士法第23条の2に基づく弁護士会の照会制度があります。
弁護士会の照会制度は、金融機関以外にも照会をすることが可能です。
例えば、債権者が債務者の携帯電話の電話番号を把握していることはよくあると思いますが、携帯電話の番号がわかれば、そこから携帯電話事業者がわかり、そこに照会をかけることによって、料金の支払が口座振替であれば取引銀行や支店名の情報を取得することができることがあります。
照会先は携帯電話事業者以外にも考えられます。債務者が利用しているクレジット会社やリース会社に照会をして、債務者の取引金融機関が判明することもあります。
以上の他にも弁護士会の照会制度には、民事執行法上の第三者からの情報取得制度にはない利点があり、例えば、第三者からの情報取得手続を使うと一定期間経過後に債務者にその通知がなされ、速やかに強制執行を申立てないと財産の隠匿がなされる可能性が高いのに対し、弁護士会の照会制度では債務者に通知がなされることは予定されておらず、数次にわたり調査をしたい時には有用です。
なお、私事になりますが、令和3年4月から第二東京弁護士会の副会長を務めており、財務を担当しております。
弁護士会の照会制度は会の重要な収入源の1つですが、ここ数年、利用件数が減少しております。
弁護士会の照会制度を利用するのは、書式集に記載されている典型的なケースがほとんどという弁護士も少なくないと思いますが、照会先や照会内容を創意工夫することによって多様な情報を得ることができますので、大いに活用してもらいたいと思います。
以上
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