弁護士コラムバックナンバー

インターネット上の業務妨害

石田 英治

 私が所属する第二東京弁護士会には弁護士業務妨害対策委員会という委員会があり、私はその委員長を務めています。当委員会は業務妨害を受けた会員弁護士の救済を主たる活動目的としており、先般、当委員会では「インターネット社会における弁護士業務妨害と対処法」というテーマで弁護士会内の定例研修を開催しました。

 ご案内のとおり、インターネット上では多くの誹謗中傷がなされ、弁護士がその被害者になることも少なくありません。当委員会でも、そのような相談を受けることが多くあります。研修会では、当委員会委員の神田知宏弁護士に講師をお願いしました。神田弁護士は、インターネット問題の専門家であり、研修では、発信者情報の開示を求める方法、妨害記事の削除を求める方法について、専門的・実践的な解説がなされ、中身の濃い充実した話しをしてもらうことができました(研修の具体的な内容は第二東京弁護士会の会報に掲載される予定です。)。妨害記事の削除に至るまでの手続きは複雑であり、簡単ではありませんが、神田弁護士は実際に数多くの妨害事件を解決した実績があり、多くの妨害事案では、地道に手続きを取っていけば妨害記事は削除でき、事件を解決することは可能です。

 しかし、他方で解決が困難な事案というものも実際には存在します。例えば、不特定多数の者が誹謗中傷の投稿を繰り返す事案では、一つ一つの妨害記事を順番に削除していくという手法では全ての妨害記事を消すことは物理的に不可能です。インターネット上での弁護士に対する誹謗中傷が刑事事件になったあるケースでは、報道によれば被害弁護士は95万件の殺害予告を受けたそうです。このような事案でどのような対応をすべきかは非常に悩ましいところです。

 第一に考えられる対応としては、無視する、ということがあります。無視するだけでは何の解決策でもないとの反論が考えられますが、このような事案の加害者は被害者が反応することがうれしく、それが投稿の呼び水になることも多く、消極的ではありますが無反応を決め込むことが実は最も無難であることもあります。多くの著名人は頻繁にインターネット上で誹謗中傷を受けていますが、安易に反応すれば炎上の原因にもなり、何の反応もしないことが多いと思います。私も10年程前に、テレビの法律バラエティ番組に出演していたことがありますが、テレビ局側からはインターネット上で批判をされても絶対に反応しないで欲しいと求められていました。

 第二に考えられる対応としては、こちらから積極的にポジティブ情報を発信するという手法があります。インターネット上の誹謗中傷等のネガティブ情報を完全に削除することはできない、そうであれば、そのネガティブ情報を打ち消すだけの強力なポジティブ情報を発信する、例えば、個人のブログ等での公益活動の報告や社会問題に関して意見発信をするというものです。当委員会の委員にも、このようなやり方を実践している弁護士がいます。その弁護士は報道等でも意見を求められることが多く、著名な弁護士であるため、このやり方が実際に奏功しているように思います。私のような無名の弁護士でも、一定の効果は得られると思いますが、筆(?)無精の人には面倒かもしれません。

 なお、そもそもインターネット上で批判を受けないよう軽率な言動を慎むということも大事な予防策だと思いますが、弁護士の活動には他人から批判を受けるというリスクが内在しており、あまり慎重になりすぎると十分な弁護士活動ができなくなるおそれがあります。

 私の委員長の任期は今年度限りであり、残り数日しかありませんが、引き続き平の委員としては委員会に残りたいと考えています。微力ではありますが、この問題の解決に向けて力を注ぎたいと思います。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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