人身傷害保険金の受領と加害者に対する損害賠償請求の関係
1.はじめに
交通事故において受傷した場合で、人身傷害保険に加入している場合、人身傷害保険金を受領することができます。
この場合、相手方への請求額の算出には少し複雑な理論が介在します。
以下では、具体例を交えながら、人身傷害保険金を受領した場合の相手方への請求額の算出方法を検討していきたいと思います。
2.損害に対する人身傷害保険の充当と人傷社代位
まず、過失割合につき当方4:相手方6、人身傷害として1000万円の損害が生じたケースで考えてみましょう。
このケースでは、当方は、相手方に対して、1000万円に対する相手方の過失割合に相当する600万円について損害賠償請求することができます。
この場合に、仮に、当方が、人身傷害保険金として700万円を受領した場合、相手方への請求額はどうなるのでしょうか。
当方としては相手方への請求額600万円を超える人身傷害保険金を受領しているので、相手方への請求は出来なくなるのでしょうか。
この点について、最高裁は、
「本件約款によれば,訴外保険会社は,交通事故等により被保険者が死傷した場合においては,被保険者に過失があるときでも,その過失割合を考慮することなく算定される額の保険金を支払うものとされているのであって,上記保険金は,被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として,被害者が被る実損をその過失の有無,割合にかかわらず填補する趣旨・目的の下で支払われるものと解される。上記保険金が支払われる趣旨・目的に照らすと,本件代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」との文言は,保険金請求権者が,被保険者である被害者の過失の有無,割合にかかわらず,上記保険金の支払によって民法上認められるべき過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)を確保することができるように解することが合理的である。
そうすると,上記保険金を支払った訴外保険会社は,保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。」(最判平成24年2月20日民事判例集66巻2号742頁)
と判示しました(裁判基準差額説)。
この最高裁の考え方を平たく言い換えると、人身傷害保険金が支払われた場合、まずは、当方の過失割合相当額(当方負担額)に人身傷害保険金が充当されます。
さらに、当方負担額よりも人身傷害保険金が上回る場合は、その上回る部分についての相手方に対する請求権が、人身傷害保険会社(以下「人傷社」といいます。)に移ります。
その結果、当方は、本来の請求額(相手方負担額)から人傷社に移った請求額を引いた限度で、相手方に請求することが可能になります。
これを上記の例で具体的に検討してみましょう。
具体例では、まず、過失割合が当方4:相手方6、人身傷害が1000万円ですので、当方負担は400万円になります。
ですので、人身傷害保険金700万円のうち400万円が当方負担額に充当されます。
そうすると、残りの300万円分が当方負担額より上回っていますので、当該300万円の範囲で、相手方に対する請求権が人傷社に移ります。
その結果、当方は、本来の相手方負担額600万円から300万円を引いた残りの300万円について、相手方に請求することとなります。

3.最後に
今回は、分かりやすい具体例で検討しましたが、実際は、もっと細かな数字や要素が出てくるので、少し複雑に感じるかもしれません。
自分がいくら請求できるのか不明な場合は、弁護士に相談して検討することをお勧めいたします。
以上
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