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自転車の交通事故について

九石 拓也

 警察庁の統計によれば,平成27年中に発生した自転車が当事者となった交通事故は98,700件,そのうち大半は自動車との事故でしたが,歩行者との事故も2,506件,自転車同士の事故も2,519件あります。対歩行者の事故,自転車同士の事故は,警察に届け出られていないものも相当数あると思われます。

 今回は,自転車が加害者となる交通事故の問題について触れてみます。

自転車の交通規制

 まず,自転車の交通規制についてですが,自転車は,道路交通法上の「軽車両」に分類されるれっきとした「車両」です(ちなみに,馬や牛も道交法上は「軽車両」です)。

 したがって,自動車等に課される道交法の交通規制は,基本的に自転車にも及びます。例えば,交差点での左方優先,見通しのきかない交差点に進入する際の徐行義務,一時停止義務,横断歩道での歩行者優先,灯火義務,酒気帯び運転・過労運転の禁止,事故の際の救護義務・事故報告義務などです。ブレーキの付いていない競技用自転車(ピストバイク)が摘発されたニュースがありましたが,これも公道を走る際に必要な制動装置を装備していなければ道交法違反になります。

 また,自転車特有の交通規制として,車線のない道路では左側端を通行すること,信号は原則として車両用信号により,ただし,歩行者自転車専用信号がある場合にはそれに従い,自転車で横断歩道を通行する場合には歩行者用信号に従うこと,原付自転車と同様に二段階右折義務があること,また,都道府県条例によって二人乗り,携帯電話の使用,傘差し運転等が禁止されています。

 自転車は車道通行が原則です。平成19年の道交法改正により,車道通行原則を徹底するため,歩道を通行できる場合が明確化されました。①道路標識により自転車が歩道を通行できるとされている場合,②児童,幼児,高齢者等が自転車で通行する場合,③車道または交通の状況から歩道を通行することが自転車の安全のためにやむを得ない場合です。

自転車運転者講習制度

 また,平成25年の道交法改正により,平成27年6月から,交通の危険を生じさせるおそれのある一定の違反行為(危険行為)を反復して行った自転車の運転者に対する自転車運転者講習制度が導入されています。

 信号無視,指定場所一時不停止,酒酔い運転など,14類型の危険行為で違反切符による取締りまたは交通事故を,3年以内に2回以上繰り返して行った場合,公安委員会より講習の受講を命じられ,従わなかった場合には罰金が課されます。

賠償責任と保険

 不幸にして交通事故を起こしてしまった場合,まずは事故を直ちに警察に届出ることが重要です。

 事故により相手を死傷させるなどした場合には,損害賠償の問題になります。自転車には,運転免許制度がなく,幼児,子供が運転することも少なくありません。幼児,子供の運転による事故については,親などの監督義務者が賠償責任を問われることになります。

 自転車の交通事故でも,事故の態様や落ち度に応じた過失相殺が行われます。路上の痕跡等の残りにくい自転車の事故では,事故の態様が当事者双方の主張で全く食い違うということも少なくありません。

 自転車には,自動車,バイク等の自賠責保険のような強制保険の仕組みがありません。

 自転車と歩行者の事故や自転車同士の事故でも,死亡事故になったり,重い後遺障害を残したりすることもあり,その場合,賠償金額も高額になります。

 近年,自転車事故向けの保険商品も増えています。万が一の場合に備え,自転車に乗る場合には保険に加入しておくと安心です。また,自動車保険,住宅保険等に,自転車事故での賠償にも適用される保険が付帯していることもあります。事故の当事者となった場合には,それらの保険を利用できないかも確認するとよいでしょう。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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