弁護士コラムバックナンバー

醜状障害による逸失利益

九石 拓也

1 後遺症による将来の減収の損害(後遺症逸失利益)

 交通事故により後遺症(後遺障害)が残った場合の,後遺症がなければ将来得られたであろう収入等の損害,将来の減収分の損害が,後遺症(後遺障害)逸失利益です。

 後遺症逸失利益は,「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(対応する中間利息控除係数)」により算出します。

2 労働能力の喪失 

 労働能力喪失率は,後遺症によって低下した労働能力の割合です。

 自賠責保険で認定された後遺障害等級に対応した労働能力喪失率表の1級100%から14級5%の喪失率によるのが,実務の通常の取扱いです。

 もっとも,後遺症の内容や程度によっては,喪失率表どおりの労働能力喪失があるのか,逸失利益が発生するのか,問題になることがあります。

 しばしば争いになるのは,醜状障害,変形障害,歯牙障害などです。

3 醜状障害の労働能力への影響

 醜状障害とは,瘢痕,線状痕,組織陥没など,事故による傷跡が残ってしまったことによる障害です。

 モデル,ホステス,俳優など,容姿が重視される職業の場合はともかく,そうでなければ,傷跡が残ったとしても仕事に影響はないのではないか,影響があったとしても限定的ではないか,ということです。

 特に男性の醜状障害については,労働能力の喪失は認められないとして逸失利益が否定されることも少なくありません。

4 醜状障害で逸失利益を認める裁判例 

 しかし,人目につく箇所に傷跡が残れば,労働能力にもそれなりの影響は残るでしょう。

 販売員や営業担当者などの接客を伴う業務に就いている,醜状が理由で配置転換や転職を余儀なくされた,昇進に影響した,人目が気になり気持ちが消極的になる,仕事に集中できない,子供や学生であれば将来の進路や職業選択に制約を受ける可能性がある等の事情から,逸失利益を認める裁判例も相当数あります。

 家事従事者についても,人と接する仕事もあり労働能力に影響がないとはいえないとして逸失利益を認めた例があります(東京地裁平成22年8月31日判決・女性,札幌地裁平成25年9月25日判決・男性)。

 醜状障害による労働能力喪失,後遺症逸失利益については,障害による仕事への具体的な影響や不利益を丁寧に説明,立証することが重要といえるでしょう。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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