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交通事故と企業損害(間接損害)

九石 拓也

1 企業損害(間接損害)

 会社の役員や従業員が交通事故の被害に遭った場合に,直接の被害者である役員や従業員に発生した休業損害や慰謝料といった損害の他に,会社に発生した損害を請求できないかと相談を受けることがあります。

 営業担当の役員が事故で死亡し,会社の営業活動に支障が生じて会社の売上,利益が減ったとか,事故で入院した従業員の代わりにアルバイトを雇用して人件費がかかったといった場合です。

 事故の直接の被害者ではなく,間接的に会社に発生した固有の損害ということで,企業損害とか間接損害といわれる問題です。

2 会社と代表者の経済的一体性

 企業損害については,会社と直接の被害者が実質的に同一である場合に限って認められています。

 リーディングケースである最高裁昭和43年11月15日判決は,個人経営の薬局が節税上法人成りし,社員は被害者である薬剤師とその妻,役員は薬剤師のみの有限会社の事案で,①代表者への実権の集中,②代表者の非代替性,③会社と代表者との経済的一体性の3要素を挙げて,事故と相当因果関係のある損害と認めました。

 これら3要素からも分かるように,実務上,企業損害が認められるのは非常に限定的です。

 代表者でない役員や従業員が被害者のケースや,代表者以外にも株主や出資者がいるケース,家族以外の役員や従業員がいるケースなどでは,概ね否定される傾向にあります。

3 給与等の肩代わり(反射損害)

 なお,以上の会社固有の損害の問題とは別に,事故で受傷した役員や従業員が休業したにもかかわらず,会社が休業中の役員報酬や給与を減額することなく支払うことがあります。

 この場合には,会社が役員や従業員に生じた損害を肩代わりしたものとして,賠償請求が認められています(反射損害,肩代わり損害)。

4 会社経営での備え

 以上のとおり,給与等の肩代わりによる損害はともかく,企業損害についての賠償には高いハードルがあります。

 翻って会社経営の観点から考えると,会社の役員や従業員,さらには代表者自身が事故に遭うことは経営上のリスクと捉え,万が一事故に遭った場合でも,会社の事業継続に支障が生じないよう日頃から備えておくことが必要といえるでしょう。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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