弁護士コラムバックナンバー

企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

第1 要旨

 公正取引委員会は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」といいます。)に基づいて、企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針(以下「企業結合ガイドライン」といいます。)等を定めています。

 今日の企業経営では、スピード重視の観点から、不採算部門を売却し、得意な事業部門を買収して事業規模の拡大をはかる「選択と集中」が多く行われています。ところが、他社の事業部門の買収を行う際(M&A)、買収の対象となる事業部門にかかる市場規模が比較的小さいと、事業結合後の売上げ規模が30億円に満たない場合であっても、市場シェア上位の事業部門同士の企業結合であれば企業結合ガイドラインに抵触する場合も出てくるため注意が必要です。

 事業部門の選択と集中が企業結合ガイドラインに抵触するおそれがある場合は、企業同士が交渉に着手する前に、双方の弁護士が企業結合ガイドラインの抵触の有無を確認することが肝要です。

第2 独占禁止法の禁止する企業結合

 独占禁止法は、会社の株式(社員の持分を含む。以下同じ。)の取得若しくは所有(以下「保有」といいます。)(法第10条)、役員兼任(法第13条)、会社以外の者の株式の保有(法第14条)又は会社の合併(法第15条)、共同新設分割若しくは吸収分割(法第15条の2)、共同株式移転(法第15条の3)若しくは事業譲受け等(法第16条)(以下これらを「企業結合」といいます。)が、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法による企業結合が行われる場合に、これを禁止しています。

第3 セーフハーバー基準

 企業結合ガイドラインでは、「競争を実質的に制限することとなるとは通常考えられない水準」(以下「セーフハーバー基準」といいます。)を定めていますが、市場全体の構造を表す指標として適切と考えられるHHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)及びその増分を用いています。

 すなわち、「HHIは、当該一定の取引分野における各事業者の市場シェアの2乗の総和によって算出される。市場シェアは、一定の取引分野における商品の販売数量(製造販売業の場合)に占める各事業者の商品の販売数量の百分比による。ただし、当該商品にかなりの価格差がみられ、かつ、価額で供給実績等を算定するという慣行が定着していると認められる場合など、数量によることが適当でない場合には、販売金額により市場シェアを算出する。」、「企業結合によるHHIの増分は,当事会社が2社であった場合,当事会社のそれぞれの市場シェア(%)を乗じたものを2倍することによって計算することができる。」と定めています。

 その具体的な水準については、過去の審査実績に照らして検討した結果、以下の(1)~(3)のいずれかを満たす場合とし、単独行動及び協調的行動の双方の分析に適用されるものとしています。

(1) HHI 1,500以下
(2) HHI 1,500超2,500以下かつHHI増分250以下
(3) HHI 2,500超かつHHI増分150以下

 また、セーフハーバー基準に該当しない場合は、個々の事案ごとに判断されることとなりますが、過去の事例に照らせば、企業結合後のHHIが2,500以下かつ市場シェア35%以下の場合には、「競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる」としています。

第4 具体例の試算

 具体例として、ある市場でシェア上位のA社とB社が水平型企業結合するケースを想定します。

 A社とB社はある製品を製造販売しており、お互いの売上規模は合計して30億円に満たないのですが、市場が狭いためA社とB社のシェアは大きく、A社の25%とB社の20%を合計すると45%となり、競合他社はC社、D社及びE社がそれぞれ15%、中国企業F社の輸入によるシェアが10%を占めています。

 A社とB社が水平型企業結合する場合、企業結合ガイドラインのHHIの計算は、以下の通りとなります。

HHIの試算
製品の販売数量A社B社C社D社E社F社 (輸入)総和
市場シェア252015151510100
2乗値6254002252252251001800
企業結合後20252252252251002800
HHI増分2025    1000

 以上の計算から、A社とB社が水平型企業結合した場合、HHIの総和は2800で、HHIの増分も150を超えていますから、セーフハーバー基準を満たしません。

 また、HHIは2500を超えているため、市場シェアも35%を超えているので、「競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる」場合にも該当しません。

 一見すると、上記のケースでは、競争を実質的に制限することとなる可能性が高いと判断されるようにも思えますが、他方、企業結合ガイドラインは、「輸入圧力が十分に働いていれば,例えば,協調的に国内品の価格を引き上げたとしても,輸入品が増加し,売上げを奪われることになるので,協調的行動がとられる可能性は低くなると考えられる。」、「現在の輸入量が小さい場合であっても,例えば,国内の事業者が協調的に国内品の価格を引き上げた場合に,輸入品が容易に増加し,国内品の売上げを奪う場合には,協調的行動がとられる可能性は低くなると考えられる。」と定めているので、輸入圧力の検討次第では、競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと判断される可能性も残されています。

第5 総括

 このように、企業結合ガイドラインの抵触の有無の判断は、ある程度正確な市場調査をしたうえ、各事業者の市場シェアに基づいたHHI値の計算が必要とされますが、その計算だけでは必ずしも判断できないケースも存在するため容易ではありません。しかしながら、比較的小さな市場における事業結合の場合でさえ、企業結合ガイドラインの検討を怠ることは許されず、慎重な判断が求められています。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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