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再婚禁止期間の見直しについて

綱藤 明

 平成28年6月1日、女性の再婚禁止期間に関する民法733条の規定の改正が、参議院本会議で全会一致で可決され、成立しました。なお、再婚禁止期間の見直しは今回が初めてとなります。改正された規定は以下のとおりです。

(再婚禁止期間)

第733条

1 女は、前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ、再婚をすることができない。

2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。

一 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合

二 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合

 要するに、今まで再婚禁止期間が6ヶ月であったのを100日に変更し、さらに、再婚禁止期間が例外的に適用されない場合が規定されたということになります。

 改正前の再婚禁止期間6ヶ月という規定は、再婚後に前夫の子が生まれる可能性をできるだけ少なくして家庭の不和を避けるということや、再婚後に生まれる子の父子関係が争われる事態を減らすことによって父性の判定を誤り血統に混乱が生ずることを 避けるということが立法の趣旨であると考えられていました。

 しかし、この再婚禁止期間については、夫婦や家族のあり方が多様化した今日の実情にそぐわないばかりか、科学技術の発達により親子関係の確定が容易になったことから、もはやその必要性も大きく減退しているなどといった強い批判がなされていました。そのような中で、最高裁判決(平成27年12月26日判決)は、今日の医療や科学技術が相当程度発達している点に着目し、

 「再婚禁止期間を厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間に限定せず,一定の期間の幅を設けることを正当化することは困難になったといわざるを得ない。

 加えて,昭和22年民法改正以降,我が国においては,社会状況及び経済状況の変化に伴い婚姻及び家族の実態が変化し,特に平成期に入った後においては,晩婚化が進む一方で,離婚件数及び再婚件数が増加するなど,再婚をすることについての制約をできる限り少なくするという要請が高まっている事情も認めることができる。また,かつては再婚禁止期間を定めていた諸外国が徐々にこれを廃止する立法をする傾向にあり,ドイツにおいては1998年(平成10年)施行の「親子法改革法」により,フランスにおいては2005年(平成17年)施行の「離婚に関する2004年5月26日の法律」により,いずれも再婚禁止期間の制度を廃止するに至っており,世界的には再婚禁止期間を設けない国が多くなっていることも公知の事実である。」

 「婚姻をするについての自由が憲法24条1項の規定の趣旨に照らし十分尊重されるべきものであることや妻が婚姻前から懐胎していた子を産むことは再婚の場合に限られないことをも考慮すれば,再婚の場合に限って,前夫の子が生まれる可能性をできるだけ少なくして家庭の不和を避けるという観点や,婚姻後に生まれる子の父子関係が争われる事態を減らすことによって,父性の判定を誤り血統に混乱が生ずることを避けるという観点から,厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間を超えて婚姻を禁止する期間を設けることを正当化することは困難である。他にこれを正当化し得る根拠を見いだすこともできないことからすれば,本件規定のうち100日超過部分は合理性を欠いた過剰な制約を課すものとなっているというべきである。」

 として、民法733条が規定する再婚禁止期間6ヶ月のうち100日を越える部分については、国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超えるものとして、その立法目的との関連において合理性を欠くもの、つまり、違憲であると判断されました。

 この改正後の規定は平成28年6月7日より施行されていますが、既に最高裁判決を受けて、離婚後100日を超えていれば婚姻届と受理するようにとの通知が法務省から各自治体に出されていたため、現在のところ、届出に際しての大きな問題は生じていないようです。

 なお、再婚禁止期間が適用されない例外にあたるというためには、(1)本人が前婚の解消又は取消しの日であると申し出た日より後に懐胎していること、(2)同日以後の一定の時期において懐胎していないこと、(3)同日以後に出産したことのいずれかについて診断を行った医師が記載した書面が必要となります。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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