弁護士コラムバックナンバー

騙されるのが愚かなのか?

高木 篤夫

1 振り込め詐欺が増えている。

 振り込め詐欺の被害が昨年また増加傾向にあるという。

 「昨年1年間の振り込め詐欺の認知件数と被害額は2年連続で減少したが、このうちオレオレ詐欺は前年比4割以上も増えたことが20日、警察庁のまとめで分かった。被害は1都4県に集中し、警察官を装い中国から電話をかける手口が目立った。」という(時事通信)。

 振り込め詐欺も,親族を偽ってお金を振り込ませる「オレオレ詐欺」から,特定の人を狙って個人情報を利用して信用させる方法、さらには詐欺集団がそれぞれ役割分担をする劇場型と巧妙化している。最近ではあらかじめ携帯電話を変えたからと連絡しておいて,変更されたという番号からかけて騙すというものもある。

 振り込め詐欺被害にあわないようにと,警視庁なども情報提供をしたり注意喚起していたりする。

2 詐欺はいたるところに

 古くからある詐欺まがいの悪徳商法も手を変え品を変えて決してなくなっていない。インターネットの世界でもフィッシングや詐欺的商法もよくみられる。大多数が詐欺であるがなかなか詐欺として摘発しづらい出会い系サイトなどでは,有名人が悩んでいるから個人的に相談の乗ってあげてほしいといって,出会い系サイトに引きつけて出会い系サイトにお金を落とさせるというケースもある。オレオレ詐欺より先に一時期さかんに被害が出た架空請求も詐欺のひとつである。

 アルバイトだといってサラ金でお金を借りさせて,それを回収するといって取り上げてその後連絡がとれなくなるとか,競馬やパチンコ必勝法があるなどといってお金を巻き上げる。このあたりは,人の欲を利用した詐欺といえる。

3 詐欺に遭った人は愚かなのか

 仕事柄,振り込め詐欺だけでなく,投資詐欺などきわめて悪質な詐欺まがい商法にもよく遭遇する。投資詐欺などは,「儲かります」というセールス文句を信じて虎の子のお金を身ぐるみはがされるまでもっていかれることも多い。しばしば「欲をかくからだ」とか,「そんなのは詐欺だとわかるはずだ」などといって,詐欺の被害者にも一定の責任があるかのように言われることがある。実際,投資被害の裁判の事案においては,多かれ少なかれ被害者の請求に対して過失相殺がなされる例が多い。しかし,投資詐欺や詐欺的商法のように,人の欲を利用した商法に遭って被害を被ったからといって,果たして被害者に落ち度があるから仕方ないとか,自業自得とかいえるのだろうか。振り込め詐欺の被害にあったら,それは不注意だからやはり落ち度があるのだろうか。そして,法律上被害回復が制限されるべきなのだろうか。

 被害者の中には,「騙されたのは自分の不注意だから仕方ない」とか,「うまい口車にのせられてしまって…」といって自分を責めたりする人もまれではない。被害者は,詐欺集団の組み立てた巧妙な演技やストーリー,甘い勧誘文句に乗せられて,まんまと騙された結果財産を失うのである。人には欲があり,利益を得ようと思うことは何ら責められるべきものではないし,人の本来もつ弱さでもある。こうした被害は被害者の財産だけでなく,心をも蝕む。また,人を疑うことを知らない老人もいたり,精神的に病んでいたりする人もいてそういう人々も多く被害にあっている。またそういう騙しやすい人だけでなく,弁護士だって振り込め詐欺の被害にあっている。裁判官だって詐欺まがいの先物取引の被害にあったりした事例もあると聞く。人は必ずしも合理的にすべてのことを見通して行動できるものではない。人は,普通自分が騙されるとは思っていないから,多少疑問をもったとしてもすぐに疑う方向に向かわない。ちょっと親切にされただけで信用できると思ってしまったり,あるいは高齢者が親身に話をきいてもらっただけでその人を信じてしまったりすることもある。また,自分に自信がある人ほど口車に乗せられて騙されるともいわれたりする。人を騙すのには,いろいろな心理学的手法もある。人は,けっこう精神的に弱いものだし,状況に左右されて意外と簡単に人を信じるのである。騙されて被害を被った人の落ち度をことさら取り上げることには正義を感じない。

4 人を信用できない社会?

 現在では,情報はあふれかえり,社会の動きのスピードも早い。振り込め詐欺が中国から電話をかけたり,投資詐欺も海外の取引を勧誘したり,インターネットに至ってはどこからフィッシングメールや詐欺の勧誘メールが届くかもわからない。国内にとどまらず海外もからんでいたりする被害も発生している。「騙し」が社会に氾濫し,広範囲で行われ,しかも手口が巧妙化していく。このように「騙し」が日常にあふれている。このような中でも誰もが客観的に存在する判断材料さえあれば的確にそれを分析して冷静かつ合理的に間違いなく判断するのだという合理的な人間像を想定して,騙されたりするのは愚かと論難することは,人を責めることでたまたままだ騙されていない不完全な自分から目を背けて一安心しているだけなのかもしれない。いずれは自分も被害者になるのかもしれないのに…。騙された人は被害者なのだ。やはり騙す方が圧倒的に悪い。天網恢恢疎にして漏らさず。私たちは,そのために少しでもできることをしていかなければならない。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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