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ふるさと納税訴訟を生かす行政運営を(令和2年(行ヒ)第68号 不指定取消請求事件 令和2年6月30日第三小法廷判決)

清水 敏

1 国の決定は「違法」

 最高裁第三小法廷は,裁判官全員一致で,国側を勝訴とした本年1月の大阪高裁判決を破棄して,ふるさと納税における新制度(指定制度)による大阪府泉佐野市を指定しない旨の総務省の決定は違法として取り消す逆転判決を下しました。

 判決を受けた総務省は,令和2年7月3日付総務省報道資料で,泉佐野市を含めた不指定とされた自治体についてふるさと納税の対象となる団体として指定したと発表しています。

2 事案の経緯

 ふるさと納税は,平成20年に導入された居住地以外の自治体に寄付すると個人住民税が控除される制度です。総務省もHP上に,制度創設前にあった『今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた「ふるさと」に,自分の意思で,いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか』という素朴な問題意識や制度創設後の活用事例などを紹介して利用を促しています。

 インターネット通販サイトでも活発に取引がなされおり,その利用は広がっています(平成30年度の実績は約5127億円)。

 しかし,当初,返礼品の内容や返礼割合などについて定める法令上の規制は存在しなかったことから,自治体間の返礼品競争が過熱し,国は,返礼品について自治体に自律的に見直しを求めるために,換金性の高いものや高額物品を返礼品としないことや返礼品を地場産品に限るよう通知を発して対応しました。この通知は,法的拘束力はなく,技術的な助言としての性質を有していました。

 ところが,泉佐野市は国の通知に従わないばかりか,「100億円還元キャンペーン」等と称してアマゾンギフト券を返礼品に加える手法で寄付金を募集して,返礼品競争を加速させました。最高裁も泉佐野市による寄付金募集は「社会通念上、節度を欠いていたと評価されてもやむを得ない」と述べています。

 対策として国は,平成31年3月に地方税法を改正して,ふるさと納税を利用できる自治体を総務大臣が指定するものに限られるという指定制度を整えたうえで,泉佐野市を不指定としました。不指定の理由の一つは,泉佐野市において新制度開始前ではありますが返礼品競争を加速させるような募集実績があったことです。

 本件訴訟は,新制度から除外された泉佐野市が,法令上の規制がなかった過去の時点での同市の募集実績を理由にした不指定は違法などと主張して,不指定の取消しを求めたものでした。

3 最高裁の判断

 最高裁は,まず普通地方公共団体はその事務処理に関し法令によらなければ国から関与されないとする法定主義(地方自治法245条の2),「国の職員は普通地方公共団体が国の行政機関が行った助言等に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならない」とする同法247条3項を適示して,泉佐野市に対する不指定には法令の根拠が必要であると述べました。

 そのうえで,ふるさと納税の新たな指定制度を定めた法令(改正された地方税法37条の2第2項)には,新制度前の過去の時点での泉佐野市の募集実績を不指定の理由と出来るとは読み取ることができず,本件不指定は法定の根拠なく行われたもので,違法であり,無効と断じました。

4 雑感

 新型コロナ対策として本年5月に成立した補正予算の事業費総額は200兆円を超えています。昨今,行政権の役割がますます大きくなっており,対する国民の側も給付金,補助金など行政の支援をより多く求めています。

 本件訴訟での総務省の行為は,最高裁に違法と判断され,法の支配を逸脱した行為です。しかも本件訴訟の前に,総務省は国地方係争処理委員会の勧告を受けて,不指定についての再検討の機会を得たにも拘わらず,その後も違法な不指定の判断を維持しており,今回の行政運営については大いに省みる必要があります。

 泉佐野市長は,ウエブサイトにて「今後、本市がふるさと納税制度に復帰することができたなら、しっかりと法令を遵守し、全国の地方自治体と協力して、よりよいふるさと納税にしていくためにあらゆる努力をしていきたいと考えております。」と述べています。

 本判決の岡崎裕子裁判官の補足意見にあるとおり,ふるさと納税制度は寄付であることを前提とする趣旨と実質的には税であることを前提とする制度趣旨をバランスよく運用することが不可欠であるにもかかわらず,返戻金の過当競争は「地方公共団体の実質的な税配分の公平を損なう結果を招く」問題点を顕在化させたものと評しています。

 泉佐野市には,返戻金競争を演じた自治体として,今後は,法令遵守とふるさと納税の適正化のためになす努力をすると誓った自らの弁から逸れないように期待をしています。

 本判決を生かすため,日頃から自治体法務に携わる弁護士としては,行政権の役割が重要になるほどに,法によって行政権の運用できるように,自治体職員や住民をはじめとした関係者と共に活動する必要があることを再認識させられました。

以上

【Webサイト】

総務省:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/080430_2_kojin.html

泉佐野市長コメント:http://www.city.izumisano.lg.jp/topics/saikousai.html

【参照条文】

地方税法

(寄附金税額控除)

第37条の2

 前項の特例控除対象寄附金とは、同項第一号に掲げる寄附金であつて、都道府県等による第一号寄附金の募集の適正な実施に係る基準として総務大臣が定める基準に適合する都道府県等として総務大臣が指定するものに対するものをいう。

 都道府県等が個別の第一号寄附金の受領に伴い提供する返礼品等の調達に要する費用の額として総務大臣が定めるところにより算定した額が、いずれも当該都道府県等が受領する当該第一号寄附金の額の百分の三十に相当する金額以下であること。

 都道府県等が提供する返礼品等が当該都道府県等の区域内において生産された物品又は提供される役務その他これらに類するものであつて、総務大臣が定める基準に適合するものであること。

地方自治法

(関与の法定主義)

第245条の2普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとされることはない。

(助言等の方式等)

第247条

 国又は都道府県の職員は、普通地方公共団体が国の行政機関又は都道府県の機関が行つた助言等に従わなかつたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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