グループ企業の関係会社に対する貸し付けにおける取締役の善管注意義務
1 はじめに
同一企業グループにおいて資金を有する会社が存在する場合、資金調達を必要とする会社に対して貸付を行うこと場合が多いと思われます。
現在のように、経済がグローバル化して資金調達は国境を越えて多様化しているなかであっても、このような貸し付けが多用されるのは、グループ会社間で資金融通を行うことは、資金調達の手段として簡便であることが挙げられるでしょう。
しかし、貸付会社、借受会社が同一企業グループであっても、その貸し付けが経営判断として不合理であれば、取締役の善管注意義務違反を引き起こすこともあります。
そこで、本ゴラムでは、古い判例ですが、グループ企業間における(無担保)貸し付けが善管注意義務違反とされた判例を参考に、グループ企業間の貸し付けにおいて善管注意義務との関係で検討すべき要素を改めて考えてみたいと思います。
2 東京都観光汽船株主代表訴訟事件(最高裁平成12年9月28日判決)
⑴ 本判例で検討された要素
本判例は、グループ企業とみられる関係にあった会社(ヨットクラブの経営を目的とする会社)に対する多額で複数回にわたる無担保貸付などが、貸し付けをした会社側(観光船運航会社)の取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反するとされた事例です。
本判例が、貸し付けが経営判断として不合理ではないかどうか、善管注意義務を検討するにあたり認定した事実などを整理してみましよう。
① 貸し付けの必要性の存否
・同一企業グループであり(役員構成、株主構成、事業・取引面で密接な関係にある)、その一つが経営危機に陥ることを防止してグループ全体の信用を維持する必要がある。
・クループ間の取引を維持する必要がある。
② 回収の可能性の存否
・本判例では、「貸付金が回収不能となり、(省略)弁済金を回収できなくなるなどの危険が具体的に予見できる状況にあるにもかかわらず、なお無担保で金融支援をすることは、もはや取締役としての裁量権の範囲を逸脱するものというべきであり、当該会社に対する善管注意義務・忠実義務に違反するもの」と認定されています。
③ 方法として相当であること
・担保設定はなされているか、利子の付与はあるか、貸付会社の資金繰りを圧迫しない程度の貸し付けかなどが挙げられます。
⑵ 本判例を参考にして
グループ企業の事業の継続のために、グループ内の企業間で融資をする場合には、前(1)項の要素を検討して、融資の合理性を慎重に吟味することが重要となります。
また、事後に善管注意義務違反を訴訟で追及された場合には、合理性があったことを証明する資料(証拠)も必要になります。
以上
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