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ベンチャー・スタートアップ企業と株主間契約~株主平等原則に絡めて~

清水 敏

1 はじめに

 会社法は、社の設立、組織、運営及び管理についての規律を定めて、伝統的な会社の統一的、画一的、効率的な運営を助けています。

 他方で、会社法が定めた枠では拾いきれない個別企業において必要とされるニーズも存在します。

 例えば、ベンチャー、スタートアップ企業が資金調達をする際、資金出資元であるベンチャーキャピタル(VC)より会社法の定めとは異なる個別仕様のガバナンスが求められる場合もあるでしょう。

 そのような際、企業とVCとの間で、会社法とは別のガバナンスを実現するための契約をする方法が用いられています。

 このような契約は、会社法の規律、特に特定の株主(VC)に一定の権限を付すことから、株主平等原則に抵触しないかが問題となり得ます。

 そこで、本稿では、よく見られる会社・株主間契約について株主平等原則などに違反しないか検討します。

2 株主総会において、株主が希望する者を取締役候補者として指名する契約

 投資先企業を管理・監視をするために、VC側の人物を投資先企業の役員に選任させることはしばしばみられます。

 例えば、VCが、自社の従業員を投資先のベンチャー企業に取締役として派遣することがあります。

 株主が取締役候補者を上程する権限については、会社法305条が株主提案権を定めており、これとは別に契約で取締役候補者の指名権を付与することが適法かが問題となり得ます。

 この点、本契約は取締役候補者を指名するにとどまり、役員の選任決議するのはあくまで株主総会であることから、他の株主の権利の制約は限定的といえます。

 加えて、本契約を一つの投資条件としてVCから投資を得る必要性、VCの保有株式が少数株主権の要件を満たしているか否かなどの個別事情を踏まえて、合理的と評価できれば、本契約は株主平等原則に違反はしないと言い得るでしょう。

3 株主が代表取締役を指名する契約

 前第2項と異なり、本契約では、会社が指名された者を代表取締役に選任する義務まで負うことになります。

 会社法362条2項3号等は、取締役会設置会社においては、取締役会に代表取締役の選定及び解職の権限を付与していることに加えて、特定の株主に権限を与えることから、同条項や株主平等原則に抵触しないか問題となり得ます。

 本契約は、取締役会の権限を制約することが明確といえます。

 そこで、株主平等原則に抵触しないとするためには、本契約を一つの投資条件として投資元から投資を得る必要性が相当高いなどの個別事情の存在、当該株主が事実上代表取締役を選任し得るような支配株主であることなどの個別の事情が必要といえるでしょう。

4 企業が一定の事項を決定する場合、事前に株主の承諾を必要とする契約

 本契約の例としては、株主総会特別決議事項(自己株式の取得、資本金の額の減少、定款変更、事業譲渡、合併・会社分割・株式交換その他の組織再編など)についてVCの事前承諾を求める契約があります。

 この契約により、VCから見れば、企業のガバナンスの強化や敵対的買収の防衛策となりますが、他方で、VCは事前承諾の対象となる事項についてあたかも拒否権付種類株式(会社法323条、いわゆる黄金株。)を保有するかのような権限を持つことになり、その適法性が問題となります。

 この点、会社法上の拒否権付株式は、同株式を有しない株主の権利を制約するため、会社法は、拒否権付株式発行を正当化する他の株主の保護を含めた諸手続きを定めています。

 契約で特定の株主に事前承諾を与えることは、他の株主を保護手続きがないまま、拒否権付株式を発行することとなり、拒否権付株式制度の潜脱と評価されるものと思えます。

 他方、投資契約ではなく、一般の融資契約であれば、企業が一定の事項を決議する際に融資元の承諾を得ることは一般に行われており、融資契約の条件として法は禁止していません。

 このような事情も考慮にいれると、本契約を正当化するためには、本契約を一つの投資条件としてVCから資金を得るなどの高い必要性があったうえで、他の株主の保護手続があったと同視し得る事情(他の株主の同意など。)の有無、承認が必要な対象事項の内容や範囲、承諾が求められる期間など個別事情を総合的にみて株主平等に違反するものか判断していくべきと考えます。

5 おわりに

 ベンチャー・スタートアップ企業に対して、VCなどの特定の株主にのみ、契約によって一定の権限を付与して、企業のガバナンスを組み立てるニースは高い反面、当該契約が株主平等原則や他の会社法の規定に抵触する可能性は常に存在します。

 株主に付与する権限に関する裁判例などがないものも多く、実際に契約を締結する際には、会社法に精通した弁護士などと、個別の事象を丹念に検討して、当該契約の合理性、適法性を判断していきましょう。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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