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アカデミックハラスメントを受けた場合の具体的対策

澤田 行助

 大学のキャンパス内の閉鎖された空間において、人格権その他の権利を侵害する形で嫌がらせ等のハラスメントを受けた場合に、一人で悩んでしまい、第三者に相談することもできず、その結果、嫌がらせ行為がどんどんエスカレートし、気づいたときには大学における研究や進級等で不利益な取り扱いを受けてしまうということがしばしば生じます。

 以前の私のコラムで、大学等の教育機関におけるアカデミックハラスメントにおいて損害賠償請求が認められた近時の判例をご紹介しましたが、今回は、アカデミックハラスメントを受けた場合の具体的対策について考えてみたいと思います。

1 まずは心と身体のケアを

 まずは、休暇等を積極的にとり、ストレスのある場所から距離を置き、心と身体のケアをするということが最も重要です。

 万一体調に異変がある場合は心療内科等の病院で治療を行うとともに、いつでも診断書を取得できる状態にしておいた方がいいでしょう。

2 加害者に対して拒絶の気持ちをはっきりと伝える

 相手と自分との関係性にもよるので一概には言えませんが、あなたの人格を傷つけるような発言や嫌がらせ行為があった場合には、加害者に対して、そのような発言や行動はどうしても受け入れることができないという気持ちをはっきりと伝えるということが重要です。

 加害者は、自分の行為がいかに相手を傷つけているかということに気づいていないケースがあるからです。

 その場で気持ちを伝えられなければ、その後にメール等で連絡し、話し合いの機会を設けるなどの方法でも良いでしょう。

 メールがあれば、苦情を伝えた痕跡がはっきり残ります。

 また、事態が深刻になることが予想される場合には、話し合いの内容を録音しておくといいでしょう。

 とはいえ、相手の立場や自分との関係性の中でどうしても伝えられないというケースもありますので精神的負担が大きいようであれば無理に伝える必要はありません。

 その場合には、悩んでいる内容を信用できる第三者に伝えて相談するとともに、被害を受けた具体的事実を友人へのメール等によりその時点で可視化しておくと後の資料になり得ます。

3 具体的に何があったかをメモに残す

 振り返りたくはないことにはなりますが、ハラスメントは、当事者間で事実の認識が著しく食い違うことが多いので、ハラスメントと思われる行為があった場合には、時間を置かずに5W1Hを意識してメモを残しておくことが非常に重要です。

 後日、大学の相談窓口や弁護士に相談する場合の資料としても参考になるでしょう。

4 記録・証拠を残す

 上記3とも関わりますが、加害者とのLINEやメールのやり取り、着信履歴やネット上の書き込みなどは全て記録として残してください。

 データ保存も重要ですが、データは本人が意識しないうちに消去されてしまうことがよくあるので、印刷物として残しておくことも必要です。

 前記のとおり、ハラスメント事案は事実の認識が当事者間で著しく食い違うことがむしろ通常なので、客観的資料が何もないと、後に客観的事実を明らかにすることは非常に困難です。

5 大学の相談窓口へ相談の上、具体的な苦情を申し立てる

(1)現在、多くの大学ではハラスメントについての相談窓口を設けています。

 そのような相談窓口は学内にある場合もあれば、学外にあるものもあります。

 臨床心理士等の外部カウンセラーを相談窓口として設置している場合もあります。

 相談員には通常守秘義務が課せられていますので、相談があったことや相談の内容が外部に漏れることはなく、具体的な対応策が行われる場合には、相談者の了解を得て行われるのが通常です。

 匿名での相談や相談員の変更ができる場合もあります。

 具体的な内容は、大学によって大きく異なりますので、各大学のホームページ等で確認してください。

(2)上記の相談窓口だけでは解決に至らないときには、大学が設置しているハラスメント防止委員会や対策委員会などに苦情を申立て、具体的な措置を要求することが可能です。

 この申立てを受けて、通常、大学では相談者に対して正式な相談を行うとともに加害者からも聴取を行い、事実調査を行ったうえでハラスメントの有無を確認します。

 その過程で弁護士等の第三者に意見を求めることもあります。

 このような調査を得てハラスメントが認定される場合には、接触禁止等の緊急措置や教授等の懲戒処分が出されることもあります。

 ハラスメントに至らない場合でもゼミの変更等学内での調整が行われることもあるでしょう。

 なお、このような苦情を申し立てても大学側が納得のいく調査を行わない、もしくはその調査が著しく遅滞する場合には、大学の債務不履行責任が認められることもありますので、大学側には適切な時期にきちんとした対応を求めることが大切です。

6 弁護士に相談する

(1)上記の相談窓口に相談しても解決に至らない場合、そもそもそのような相談窓口が存在しないないしは十分機能していない場合などは弁護士に相談することが考えられます。

 弁護士に相談の上依頼してもいきなり訴訟提起をするわけではなく、通常は、まずは加害者本人や大学に書面で通知し、具体的事実を示して事態の改善に向けて交渉することになります。

 事案の軽重にもよりますが、このような交渉により状況が改善されて一定の和解に至ることが通常で、訴訟提起にまで至るケースは多くはありません。

(2)上記の交渉をしても解決に至らないときには、調停や訴訟などの解決手段があります。

 加害者本人のみを相手にするのか、場合により大学側の対応も問題にするか、訴訟に耐えうる証拠はあるか、損害はいくらかなど綿密な検討が必要となります。

 教員に対しては人格権侵害等を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)、大学に対しては使用者責任に基づく損害賠償請求(民法715条1項)や債務不履行による損害賠償請求(民法415条)などが考えられます。

 訴訟については以前の私のコラムも参考にしてください。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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