2020年1月

不祥事情報の開示・公表


石田 英治



 企業が不祥事を行った場合の対応として問題となるのが、不祥事情報を開示・公表すべきか否かという点です。かつては不祥事が表沙汰にならないようにすることに力が注がれていたこともあったように思います。そして、実際に表沙汰にならずに解決した例も少なくなかったと思います。しかし、コンプライアンス意識が高まり、内部告発も容易になり、また、インターネットも発達した現在の社会で不祥事を隠蔽することは不可能と思った方が良いでしょう。また、隠蔽が発覚した場合に企業が大きな損害を被ることも珍しくないことです。不祥事情報の不開示・不公表のリスクは非常に大きくなっています。

 不祥事情報を開示すべきケースとしてよく指摘されるのは、以下の3つの類型です。
① 法令等によって開示・公表が義務付けられている場合
② 被害の発生及び拡大を防止するために広く社会に注意喚起を促す必要がある場合
③ 将来不祥事の不開示・不公表が発覚することによって企業や組織の社会的評価・信用が著しく棄損される可能性があり、現時点で開示・公表することにより社会的評価・信用の棄損を回避・軽減できると想定される場合

 上記の①については、上場企業の適時開示や各種業法に基づくリコールの告知が典型です。②については、健康被害を引き起こす可能性のある飲食料品を回収する場合、事故の危険のある家電製品を回収する場合、詐欺等の犯罪に利用される危険のある個人情報が漏洩した場合等が典型です。この2つの類型は比較的判断がしやすいのですが、判断に悩むことが多いのが③のケースです。例えば、社員が犯罪を行い逮捕された場合はどうでしょうか。あまり大きくない企業の非管理職の社員が違法薬物を使用して逮捕されても普通は公表しないと思います。しかし、上場企業の役員であった場合はどうでしょうか。あるいは、非管理職であったとしても、公務員、とりわけ公立学校の先生であればどうでしょうか。この点の判断が難しいのは、開示・公表の要否に明確な客観的基準がないからです。自治体によっては公表基準を定めているところもありますが、各自治体によって微妙に基準が違うこともあります。また、民間企業では、そもそも基準を定めていないところが多いと思います。そのような企業では、その都度、マスコミがどのような報道をするか、あるいはインターネット上で騒ぎになるかということを考えながら判断することもあると思います。

 企業が上記③の不祥事情報を隠蔽した場合、企業の社会的評価が棄損されることは容易に想像できると思いますが、実は企業内の個人にも重大な法的リスクがあります。この点のリーディングケースとしてよく例に挙げられるのが、無認可添加物混入肉まん事件です。食品販売会社の取締役らが、商品である肉まんに食品衛生法上使用が認められていない添加物が混入していることを認識したにもかかわらず、これを隠して販売継続することを決定し、通報者に対して口止め料を支払うなどした事件です。裁判所は、取締役らに対して、善管注意義務に違反したとして、会社の社会的信用が失墜したことや加盟店に対する営業補償が必要になったこと等による損害につき賠償責任を認めました(大阪高等裁判所平成19年1月18日判決)。ここまでは普通の話ですが、無認可添加物を使用した商品が販売されていたことを後から認識した取締役らに対しても、事実を公表すべき義務があったと認め、無認可添加物を使用した肉まんを販売していたことを公表しなかったことを理由に損害賠償請求を認めたのです(大阪高等裁判所平成18年6月9日判決)。

 このような判例に接すると、不開示・不公表のリスクをおそれ、軽微な不祥事でも、とにかく開示・公表した方が無難なのではないかと心配に思うこともあるかもしれませんが、そのような行き過ぎた対応が逆に企業の信用を失う原因となることも考えられます。例えば社内で起こった悪質とは言い難い軽度のパワハラ・セクハラや範囲が限定された少額の残業代の未払い等を全て自社のホームページ上で開示している企業があれば、無用な誤解や不安を招き、結果として取引を敬遠されることもありうると思います。
 そこで、どのような場合に開示・公表しなければならないのか、その基準が問題となるわけですが、リスクマネジメントの考え方では、①先に開示・公表した場合のリスクと②後に不開示・不公表が発覚した場合のリスクのどちらが大きいのかを比較することになります。この場合、マスコミリスクとインターネット上の風評リスクが大きな判断材料になることが多いと思います。注意を要するのは、③不開示・不公表が発覚しなかった場合の利益を期待すべきではないと言うことです。冒頭で申し上げたとおり、不祥事を隠蔽することは不可能です。リスクマネジメントの要諦は「最悪のリスクを回避する」という点にあり、③の利益を期待し、隠蔽を図ることが最悪のリスクであることは言うまでもないことです。人は危機に直面した場合、目の前のリスクを回避することに一所懸命になり、後に続くより大きなリスクを無視ないし軽視する傾向にありますが、冷静に考えれば、現実には上記①と②のリスクの比較の中で考えるしかないことは明らかです。前述した社員が逮捕された場合の例も同じ発想で考えることになります。

以上



↑TOP