新たなオープン・クローズド戦略ー特許と営業秘密の選択基準ー | IP Boost Japan

新たなオープン・クローズド戦略ー特許と営業秘密の選択基準ー

[投稿日] 2024.01.15[更新日]
藤原宏髙

執筆者:弁護士法人ひかり総合法律事務所 代表社員

藤原宏髙

(ふじわら ひろたか)

弁護士 藤原宏髙

 コラムで記載した「新たなオープン・クローズド戦略―特許か、営業秘密か」(以下、「第1編」という)の続編である。

 今回は、特許でも営業秘密でも保護できるケースで、どちらの保護方法を選択すべきか、そのメルクマールについて検討した。

第1 営業秘密で保護できても特許での保護ができない場合

 まず前提として、営業秘密で保護できても特許では保護できない場合を整理した。以下のような具体的な例がある。

1 特許出願できないビジネスモデルや事業活動に有用な技術上または営業上の情報

 特許制度は技術の保護を通じて産業の発達に寄与することを目的としているので、販売管理や、生産管理に関する画期的なアイデア(ビジネスモデル)を思いついたとしても、アイデアそのものは特許の保護対象にならない。

 そうしたアイデアがICTを利用して実現された発明のみが、ビジネス関連発明として特許の保護対象となるにすぎない。

https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/biz_pat.html#anchor1-1

 ところが最近では、ビジネスモデルを構築するに際して重要な鍵となる情報、例えば、商品原価データ(かっぱ寿司事件)、基地局情報(楽天モバイル事件)、自動車部品の取引台帳(双日事件)などの不正な持出し、漏洩などによる営業秘密侵害事案が増えている。

 生産方法・販売方法など,事業活動に有用な技術上または営業上の情報に関しては、ICTを利用した画期的なアイデアを除き、営業秘密として保護することが可能である。

2 新規性や非自明性がない情報

 特許は新規性と非自明性を要求するが、これには該当しないが、ビジネスにとって価値のある情報(例えば、顧客リスト、ビジネス戦略、市場調査の結果など)は営業秘密として保護することが可能である。

3 特許での保護が難しい製造プロセスや技術的なノウハウ

 特許で保護が難しい製造プロセスや技術的なノウハウ(例えば、特定の製品を効率的に製造する方法や、特定の問題を解決するための独自の手順)も、営業秘密として保護することが可能である。

4 内部の業務手順や管理方法:

 社内の効率的な業務手順や管理方法など、特許として保護することが困難な場合でも、これらはビジネスの競争優位を維持するための重要な要素となり得るため、営業秘密として保護することが可能である。

5 特許の要件を満たさないフォーミュラやレシピ

 独特の配合比率や製造方法を含むフォーミュラやレシピ(例えば、飲料や食品のレシピ)は、特許の要件を満たさない場合があるが、営業秘密としては保護することが可能である。

 これらの例では、特許が取得できなくとも、情報が公開されない限り、営業秘密として無期限に保護される利点があり、特許と異なり、営業秘密は情報を公開する必要がなく、また、特許出願や維持に関連するコストもかからない。ただし、営業秘密を維持するためには、情報の漏洩を防ぐための適切な内部管理とセキュリティ対策が必要であることは、すでに第1編で述べたとおりであり、営業秘密が管理できない環境下では、営業秘密としても保護できないことには注意を要する。

第2 特許でも営業秘密でも保護できるケース(重畳適用できるケース)

 重畳適用できるケースでは、保護する情報が新規性や非自明性の要件を満たしているため、特許の適用が可能である一方で、これらの情報を公開せずに内部で管理し続けることによって、営業秘密として保護することもできることから、特許か営業秘密かの判断に役立つメルクマールが見つかれば、大いに参考になろう。

 なお、特許出願を行うと、その詳細は公開されるため、その時点で発明の詳細は営業秘密としての保護は失われることに注意が必要である。

 他方、営業秘密が残る形で特許出願ができた場合は、特許の有効期限が切れた後も、特許にはない形での保護を営業秘密によって継続することも可能なことから、独占の確保としてのクローズド戦略では、特許で保護する場合のメリット・デメリットと、営業秘密で保護する場合のメリット・デメリットの双方を勘案して、重要な経営判断を行うことになる。

 以下、特許で保護すべきか営業秘密で保護すべきか、それぞれの判断の参考となるメルクマールを抽出した。

 

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