新たなオープン・クローズド戦略―特許か、営業秘密か― | IP Boost Japan

新たなオープン・クローズド戦略―特許か、営業秘密か―

[投稿日] 2023.12.11[更新日]
藤原宏髙

執筆者:弁護士法人ひかり総合法律事務所 代表社員

藤原宏髙

(ふじわら ひろたか)

第1 二つの選択肢

オープン・クローズド戦略では、技術をオープンにするのか、独占するのかの判断がポイントとなるが、独占する技術もオープンにする技術も自社の権利下に入れる必要がある。技術を自社の権利下に入れる(つまり保護する)方法としては、「特許」と「営業秘密」という二つの主要な選択肢がある。要は、特許で保護するか、営業秘密で保護するか。特許を取得できれば長期間保護されるが、特許では技術内容が公開されてしまうことから、他社による特許回避や周辺特許の取得などのデメリットもある。
そこで、どのようなケースが特許申請に向いており、どのようなケースが営業秘密での保護が良いのか整理した。

第2 特許による保護及び営業秘密による保護のメリットとデメリット

以下のとおり、メリット及びデメリットを纏めた。

保護方法適切なケースメリットデメリット
特許・明確に定義できる技術的発明であること。  
・競合他社による容易な模倣が可能な製品やプロセスなど。
・長期にわたって商業的価値を持ち続けるイノベーションがある場合。
・法的に認められた排他的権利を得ることによって、競合他社による模倣を防ぐことができる。         
・特許権の期間中は,他者が同様の発明を使用
・販売・輸入することを禁止できる。
・技術的情報を公開することで,信用やブランド価値を高める可能性がある。        ・特許を資産として活用することができ、ライセンスや売却が可能。
・特許出願と維持にコストがかかる。       
・特許出願のプロセスは時間がかかり、複雑である。
・発明の詳細を公開する必要があるため、特許期間終了後は他者が自由に使用できるようになる。
・特許は公開されるため、競合他社がその情報を基に新しいイノベーションを生み出す可能性がある。
営業秘密・簡単に特許で保護できないノウハウや業務プロセスなど。
・短期間での商業的価値が期待される技術や情報である場合。
・内部運用や製造方法など、外部から容易に知り得ない情報。
・コストが低い。 
・法的手続きや時間がかからない。
・無期限に保護が可能。
・発明の詳細を公開せず、秘密に保つことができる。
・法的な排他的権利がないため、秘密が漏れた場合の保護が限られる。
・内部者による情報漏洩のリスクがある。
・秘密保持のための厳格な内部管理が必要。
・営業秘密は内部者によるリスクが高まる可能性がある。

これらの選択は、企業のビジネスモデル、市場環境、競合状況、技術の特性などに基づいて慎重に行う必要があり、その判断には専門的な知識が必要である。特に、長期にわたって市場での優位性を保ちたい場合や、他者に模倣されるリスクが高い技術については、特許保護が適している一方、内部の運用方法や特定のノウハウなど、外部に容易に知られることのない情報は営業秘密として保持することが望ましい。

第3 特許で保護すべきとは言い切れないケース

以下にいくつかの典型的なケースを示す。

1.発明の新規性や非自明性が低い場合

特許は新規かつ非自明な発明にのみ付与されることから、市場にすでに類似の製品や技術が存在する場合、基本的には特許を取得することは困難である。ただし、アイディエーションによって、特許が取得可能となる場合もあるので、専門家に相談すべきである。

2.発明の公開が望ましくない場合

特許出願には、発明の詳細を完全に公開する必要があり、これにより競合他社がその情報を基に代替技術を開発するリスクが生じる。これは経営判断上、最も重要なポイントである。

3.ブラックボックス化など技術の完全秘匿が可能な場合

例えば、対象技術を半導体チップ内に閉じ込めることでチップの動作解析や分解調査からではその技術が解明できないといった形態で、技術の完全秘匿が可能であり、しかも、そのような完全秘匿した形態以外では製品やサービスを市場に出すことはない場合、技術が公開されてしまう特許出願を避けることを検討すべきである。

4.短期間での商業的価値

特許取得プロセスは時間がかかり、その間に発明の商業的価値が減少する可能性があることから、技術が急速に進化する業界では、特許取得の遅延が問題となる。

5.コストとリソースの制約

国際出願まで含めると、特許出願と維持には高額なコストがかかる。小規模企業やスタートアップでは、これらのコストが負担となる。

これらのケースでは、営業秘密として保護する方が適切か、あるいは別の戦略を検討することが必要となる。特許戦略は、企業の全体的なビジネス戦略、技術の性質、市場環境に密接に関連しており、一概には言い切れない複雑な判断が求められる。

第4 営業秘密で保護すべきとも言い切れない場合

以下にいくつかの典型的なケースを示す。

1.秘密の保持が難しい場合

営業秘密は社内外での厳格な秘密保持が必要であり、秘密を保持することが困難な情報、特に多くの従業員やパートナー企業が関与するプロセスや製品の場合、営業秘密として保護することは実用的ではないことがある。

2.競合他社による独立発明のリスク

営業秘密で保護された技術でも、競合他社によって独立に開発される可能性は否定できないことから、他社が同様の技術を開発しても営業秘密の侵害とはならない。

3.内部者による情報漏洩のリスク

従業員や元従業員による情報漏洩は営業秘密保護の大きなリスクであり、特に従業員の流動性が高い業界や企業では、このリスクはより顕著となる。

4.市場での優位性の維持が困難な場合

技術や情報が業界内で広く知られてしまうと、営業秘密としての価値が著しく棄損されることから、市場での優位性を維持するためには、時に特許保護の方が適切な場合がある。

第5 営業秘密でも特許でも保護できない場合

以下のケースです。

1.一般知識や公共領域の情報

既に公共領域にある情報、つまり一般に知られているか公開されている情報は、特許でも営業秘密でも保護することはできない。

2.自然法則や数学的公式

物理学の法則、数学的公式やアルゴリズムなど、自然界の基本原理に関する知識は特許保護の対象外であり、これらは基本的には営業秘密としても保護できない。

3.抽象的なアイデアや概念

具体的な実装方法や応用がない単なるアイデアや概念は特許で保護されない。また、これらは具体的な情報として秘密に保持することも難しい。

以上

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