株主による各種書面の閲覧等請求権
1 はじめに
会社法上、株主は、会社に対して次の各種書面の閲覧等を請求することが認められています。
① 定款閲覧・謄本交付請求権(会社法第31条第2項)
② 株主名簿閲覧・謄写請求権(会社法第125条第2項)
③ 株主総会議事録閲覧・謄写請求権(会社法第318条第4項)
④ 取締役会議事録閲覧・謄写請求権(会社法第371条第2項)
⑤ 計算書類等閲覧・謄本交付請求権(会社法第442条第3項)
⑥ 合併等関係書類閲覧・謄本交付請求権(会社法第782条第3項、第794条第3項、第803条第3項、第815条第4項及び5項)
⑦ 会計帳簿等の閲覧・謄写請求権(会社法第433条第1項)
株主は、閲覧等を請求する書面が、書面で作成されているときは、その書面の閲覧等を、書面でなく電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を紙面又は映像等に表示する方法により表示したものの閲覧等を請求でき、会社側は、基本的にこの請求を拒否することはできません[1]。
上記のうち、⑦については、閲覧等請求権が認められる株主の持株比率の要件[2]が定められていますが、①乃至⑥については、かかる要件はありません。
2 閲覧等請求権の行使の際の問題点
このように、各種書面の閲覧等の請求は法的には認められているものの、実際に行使する場面においては、事実上あるいは法律の解釈上、制約を受けることがあります。
以下、閲覧等請求権に対する考え得る制約とそれに対する若干のコメントを述べます。
(1) 会社側が任意に応じない場合
株主が閲覧等の請求をしても、会社側が任意に応じない又は応じない可能性が高い場合、株主が各種書類を閲覧等することが困難になりますが、こうした場合、株主は、会社を被告として、閲覧等請求訴訟を提起することができます。
もっとも、訴訟提起の前に、別のルートで書面を入手することを検討することも有益だと思われます。
たとえば、定款については、設立時の原始定款であれば、その認証を行った公証役場において閲覧・謄本請求をして入手することや、法務局における設立登記申請の添付書類として定款が添付されているため、その添付書類を閲覧して内容を確認することも考えられます[3]。
また、税務申告書や決算書等は、会社の税務申告を代理した税理士が控えを有していることがあり、こうしたルートから入手ができないかを検討してみることも考えられます。
(2) 会社のコピー機の使用
株主名簿や会計帳簿等の書類については、閲覧・謄写の請求[4]が認められていますが、この「謄写」の方法としては、書き写すだけでなく、株主が持参したコピー機を利用して写しを作成することや、カメラやスキャナを利用して電磁的記録の形で記録化することも許容されると解すべきと一般に考えられています。
こうした方法を認めないと、たとえば書面の分量が膨大なものである場合、すべてを書き写すとなると時間がかかり、謄写請求権の行使が不可能になってしまいます。
では、株主が閲覧・謄写の請求をする際、会社に対して、会社のコピー機を利用して写しを作成することも許容されるのでしょうか。
この点、株主に謄写請求権が認められる場合には、「謄写の設備」を会社が用意しなければ備置義務違反になると考えているように見受けられる見解もありますが[5]、株主に閲覧等の権利があるということは会社側からいえば、閲覧等のための場所を提供して閲覧等をさせ、その間、閲覧等を妨げてはならない義務を負うことを意味し、会社の複写機を使用させるよう求めることはできないとする見解もあり[6]、学説上、見解はわかれており、株主が会社のコピー機を利用して写しを作成することができるかは不明瞭です。
閲覧・謄写の請求をする際には、カメラ等を持参のうえで、もし差支えがないならば、コピー機を使用させてもらえないかと会社に聞いてみるといった対応が現実的であると思われます。
(3) 計算書類等が作成されていない場合
計算書類等の閲覧等請求を受けた会社において計算書類等を作成していない場合、株主は、会社に対して、計算書類等を作成した上で、閲覧等をさせることを請求できるのでしょうか。
この点が問題となった裁判例[7]は、計算書類等閲覧等請求権について定めた会社法第442条第3項は計算書類等が「書面をもって作成されているとき」あるいは、「電磁的記録をもって作成されているときは」と記載されていることを理由に、同条は、計算書類等が実際に作成されていることを前提として、その謄本の交付請求等を認めているものと解されるとし、株主が会社に対して、計算書類等を作成することまで請求することはできないとしています。
この裁判例の考え方を前提とすると、閲覧等請求の前提として計算書類等の作成を求めることはできず、会社は作成していないことを理由に閲覧等の請求を退けることができることになり、閲覧等請求権の実効性が失われてしまうことになります。
もっとも、会社法が定める計算書類等の備置義務に違反して会社が書類を備置せず、又は正当な理由なく閲覧等を拒んだときは、取締役等は、100万円以下の過料に処せられます[8]。
また、閲覧等請求の拒絶及び書類の作成をしないことは取締役の任務懈怠となり、取締役は会社が被った損害の賠償責任を負うと考えられます。
閲覧等請求権の実効性を確保するためには、こうした事態となることを背景に、会社に対して、任意の作成を促していく必要もあると考えられます。
3 おわりに
株主による各種書面の閲覧等請求権の目的は、株主が、会社の取締役等の行為を監督是正することを通じて会社の利益を保護することのみならず、その権利の確保や行使に関する調査を行い、自己の投資判断材料を得ることを可能にするという点にもあります。
株主による書面の閲覧等請求性の実効性を高め、こうした目的を達成するためには、上記2で述べたような制約があり得ることを念頭に置きつつ、実際の行使の場面で、うまく運用していく必要があるといえるでしょう。
以上
[1] なお、保存期間に留意する必要があります(公証役場での保存期間は20年間、法務局の附属書類の保存期間は5年間とされています。)。
また、閲覧等の請求権者についても限定されているので、公証役場や法務局へ事前に確認したほうがよいでしょう。
[2] 閲覧・謄写の請求を行うに際して、謄本の交付の請求まで求めることができるかも問題となりますが、会社法は、条文上、「謄写」と「謄本又は抄本の交付」とを明確に使い分けていることから、費用を株主が負担するからといって、会社に謄本の交付を請求することはできないと解されています。
[3] 上柳克郎=鴻常夫=竹内昭夫編集代表「新版注釈会社法(8)株式会社の計算(1)」(有斐閣、)72頁
[4] 山下友信編者「会社法コンメンタール3-株式(1)」(商事法務)292頁
[5] 東京高裁平成27年11月11日判決。
[6] 山下友信編者「会社法コンメンタール3-株式(1)」(商事法務)292頁
[7] 東京高裁平成27年11月11日判決。
[8] 会社法第976条第4号及び第8号。
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