2017年10月

相続人に対する株式の売渡請求制度

澤田 行助



 非公開会社においては、株式会社の株主が死亡して相続が発生した場合や合併の場合などに、その取得者(以下、「一般承継人」といいます。)に株式が承継されることが、会社にとって好ましくない事態を生じさせることがあります。会社法は、このような事態を避けるために、会社がかかる一般承継人に対して売渡請求を行い、これらの者の同意がなくても、当該株式を会社が取得することができるものとしています(会社法第174条〜第177条)。今回はこの制度を見ていきたいと思います。

1 相続人に対する株式の売渡請求を行うための前提要件

 まず、この制度を利用するためには、①当該株式が譲渡制限株式であること(会社法第2条17号)、②定款に売渡請求ができる旨の内容を定めていること、③会社による自己株式の取得が財源規制に違反しないことが必要です。①は、例えば、「当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。」といった規程を定款に設けます。取締役会を設置していなければ、承認機関は、株主総会や代表取締役などとすることも可能です。そして、その上で、②「当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。」といった規程を定款に設けるのです。この定款規程は、相続による一般承継が生じた後でも設けることができるものとされていますが、もし現在このような規程が存在しないのであれば、規程を設けることを検討すべきでしょう。③は、買い取るお金があること、すなわち自己株式取得の財源は、剰余金の分配可能額に制限されるということです(会社法第461条1項5号)。したがって、債務超過の会社は、財源規制を満たさないことになります。分配可能額が株式の取得に十分ではない場合の対策としては、ⅰ)来期の決算の数字が良好な場合にはそれを待つ(但し、後述の通り、売渡請求は相続があったことを知った時から1年以内に行う必要があります)、ⅱ)まずは売渡請求をしておいて、売買価格決定段階で売渡請求の一部を撤回することなどが考えられます。

2 具体的な手続き

 では、上記の条件を満たすことを前提として、実際に会社の株式の相続が発生した場合、どのような手続きをもってかかる請求を行うのでしょうか。順に確認していきましょう。

(1)株主総会の特別決議

 まず、会社は、上記の定款の定めにしたがい、売渡請求を行う一般承継人に対して、その都度、株主総会の特別決議により、売渡請求をする株式の数と、売渡請求をする相手方の氏名または名称を定めることが必要です(会社法175条1項)。売買価格は決議する必要はありません。なお、売渡しの請求を受ける一般承継人は、当該株主総会決議についての議決権を行使することはできません(同条2項)。

(2)売渡請求の通知

 次に、請求する株式数を明示して、株主総会決議の相手方に対し、自己株式の売渡しを請求します(会社法176条1項本文、2項)。価格は必ずしも明示する必要はありませんが、通常、会社が一定の評価をして、妥当と考える価格を明示します。そして、売渡請求を受けた一般承継人は、価格の点を除き、この売渡請求自体を拒絶することはできません。前記の通り、この請求は、会社が相続や合併等の一般承継があったことを知った日から1年以内に行うことが必要です(同条1項但書)。そして、会社は、この売渡請求をいつでも撤回することできます(同条3項)。なお、この場合、法定相続人が複数ある場合で遺産分割協議を終えているかどうかが明らかでない場合に、誰に売渡を請求するかという問題があります。具体的に誰が相続したかを会社が把握できている場合はいいのですが、そうでない場合は、相続が発生して準共有となった時点で、特別の事情がない限り、法定相続人全員に対し、相続した株式の全部を明示して売渡請求を行っておくべきでしょう。高裁の判例では、準共有者の一部に対する売渡請求も有効であるとされていますが、事後に遺産分割協議が成立して、その者の相続割合が変動するなど困難な問題も生じ得るので注意が必要です。

(3)売買価格の決定

 売買価格は、まずは、一般承継人との協議によって定めますが、協議が整わないときには、会社または一般承継人は、売渡請求があった日から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第177条1項、2項)。この場合、当事者双方、特に会社側は、一定の資料を準備して、株式の価格を疎明することが必要であり、最終的に和解により売買価格が決定されることもあります。第三者による客観的な意見を求める場合は、鑑定人による適正な株式価格の意見をもとに、当該会社の資産状態その他一切の事情を考慮して、裁判所が価格を決定します(同条第3項)。一切の事情としてどの範囲まで判断要素となるかは必ずしも明らかではありませんが、会社側としては、買取りの必要性や運転資金の必要性など、株式売買に伴う会社側の事情を十分に説明すべきでしょう。

3 支配権移動の問題

 相続人に対する株式の売渡請求は、本来は、支配株主である創業者以外の株主が亡くなった場合などに行われることが想定されていますが、支配株主である創業者が亡くなった場合であっても、前記の通り、創業者株主の相続人には、株式の売渡請求を議案とする株主総会において議決権がないわけですから、支配株主が亡くなった場合のその相続人に対しても行うことができることになります。会社の存続のためには、必ずしも創業者一族が支配権を持ち続ける必要はないケースもありますが、支配権が移動することを予め防いでおきたいのであれば、創業者が有する株式以外は相続人に対する売渡請求の議案についての議決権制限種類株式としておく、法人を設立し、支配株主の有する株式を法人に所有させるなどの対策が考えられます。但し、手続が煩雑だったり、税金の問題も生じ得ますので、専門家に相談しながら進めることが必要です。

以上


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