弁護士コラムバックナンバー

定期購入と継続的な契約の出口(解約)その2

高木 篤夫

■サブスクリプション・定期購入

 定期購入についての問題点を前回指摘しましたが(2019年4月弁護士コラム),最近は定期購入を含め,お試し定期購入を参考にしているビジネスモデルと思われるサブスクリプションと言われるビジネスモデルが広がっています。ソフトウェアにしても以前はパッケージ・ソフトを購入して使用するというのが一般でしたが,最近はソフトウェアを含めたあらゆるサービスや商品が一定期間利用できるという「一定期間利用する使用料」を支払うというビジネスモデルであるサブスクリプションモデルが多くなっています。マイクロソフトのOffice365などが代表的なものといえます。このビジネスモデルはITをめぐる「所有から利用へ」というトレンドにひとつといえます。

 毎月決まった料金を支払い,サービスや商品を受取る「定額制」もサブスクリプションと同列で使われることが多い言葉です。決まった期間に一定の金額を支払うというビジネスモデル自体は似かよったものですが,サブスクリプションの方が,「料金プランやオプションなどをニーズに合わせて用意している」という点に違いがあるなどといわれます。月額定額制の音楽聴き放題のサービスであるApple Musicなどが代表的です。定額制もサブスクリプションも同義のように扱われることもあります。

 こうしたサブスクリプション,定額制契約は,継続的な契約であって基本的に終了時期が定められていないことが多くなっています。契約の終了時期の定めがあるとしても,自動更新の仕組みを取り入れていることが多いように思われます。

 最近問題となっている定期購入契約でも,雑誌の定期購読など,前払いした期間だけの契約であって,継続するには新たに購入料金を支払わなければならないというものが以前は多かったのですが,最近は口座振替やクレジット決済で支払うなど一度決済情報を販売者に渡すと自動的に継続してしまうものも多くなっています。

 こうしたことからすると,サブスクリプション,定期購入の継続的契約は消費者がいつ終わりにするかの意思表示をしなければならないということになってきます。

 前回とりあげた「お試し定期購入」もこうしたサブスクリプション・定額制契約の仕組みを取り入れた欺瞞的な商法としてトラブルが発生しているといえます。

 定期購入自体の問題については,「相談激増!「おトクにお試しだけ」のつもりが「定期購入」に!?-解約したくても「解約できない」、「高額で支払えない」…-」で2019年12月19日に国民生活センターが報告していますので,参照していただければ具体的な事例も含めて知ることができます。

 決済の面からも定期購入もからんで「(特別調査)消費者トラブルからみる立替払い型の後払い決済サービスをめぐる課題」が国民生活センターから2020年1月23日に公表されましたので,決済に関係する問題についても関心があれば参照していただけるとよいと思います。

■契約終了についての規制

 定期購入の問題は,契約の終了方法(解約方法)だけでなく,上記の国民生活センターからの報告にもあるようにほかにも問題がありますが,継続的契約に解約条件などを付加して解約しにくくしていることについては,アメリカでも問題視されているようです。カリフォルニア州法(Senate Bill No. 313)では,オンライン契約については,オンラインで解約できることが義務づけられています。

 「オンラインで契約したサービスはオンラインで解約、米加州で義務づけ(Yoichi Yamashita)」(マイナビニュース)という記事で紹介されています。アメリカでの継続的サービス契約解約の事情も書かれていて興味深いものです。

 消費者が,「お試し定期購入」が継続的な契約であって支払総額がお試しの初回価格を大きく超える契約であることを知らないで契約することは,前回コラムで紹介した特定商取引法で課された表示義務で一定程度抑止できますが,表示義務を形の上では守りながらも消費者に誤解をあたえるような欺瞞的な表示を工夫してトラブルを招き続けているECサイトがあるのが現状です。

 契約の申込みだけ容易にして解約はむずかしくするというのは,事業者としてフェアとはいえないのではないでしょうか。商品を体験・評価してもらって価値を理解してもらってさらに購入してもらう循環を作ることで顧客と事業者がWinWinの関係になるべきなのです。カリフォルニア州法のようなオンライン契約については入口も出口も同じ方法を用いることが義務づけられてもよいと思います。

■表示義務違反と民事的救済

 表示の規制(特定商取引法や景品表示法)は行政規制なので,違反しているとしても契約の効力を表示義務違反の事実のみで否定することはできません。違反があった場合にはより直接的な民事的効力を及ぼす規定を考えることも必要だと思われます。

 さらに一歩進めて,インターネットでの取引(通信販売)にもクーリングオフを取り入れることも考えるべきかもしれません。前回も書いたとおり,通信販売は不意打ち性はあまり問題とならず,消費者の自主性が尊重されているという認識から,消費者には十分検討する情報と余裕があるものとして,通信販売にはクーリングオフ制度は設けられていません。

 しかし,契約内容を誤解しやすい欺瞞的なWeb広告,フラッシュマーケティングのような消費者に冷静に検討する余裕を与えないような販売手法もみられることを考えると,消費者が不十分な認識や理解のまま契約申込みをしてしまうことがインターネット取引では多くなっているように思います。

 そして,インターネット上での契約にあたって使用する機器も画面の大きなPCからスマホのような小さな画面で行うことも多くなってきています。一画面でとても契約内容を一覧できない端末では十分に契約内容を吟味しにくく,一覧性がない画面上の表示で理解しづらいことからすると,通信販売でも不意打ち性や熟慮が足りない申込みがなされることは否めません。インターネット取引でも契約してからキャンセル期間を設けて撤回する機会を与えることもあながち理由がないものとは思えません。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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