弁護士コラムバックナンバー

企業不祥事への対応

上田 正和

1 企業の不祥事

 規模の大小や業種・業態を問わず,企業活動における様々な問題が企業不祥事としてマスコミによって取り上げられ,時には脚色を伴って報道されています。

 インターネットやSNSの普及により情報の量と伝達速度には著しいものがある今日,企業の存立はマスコミやそれを介した社会一般の関心や世論の上に成り立っています。

 法律上の責任(損害賠償,刑事処罰,営業停止や課徴金)が最終的に否定されたとしても,「〇〇社の偽装は10年前から常態化」「経営陣は不正を認識し主導か」,さらには「〇〇社に捜査のメス」という報道がなされれば,それが過大な報道であったとしても,当該企業は社会的に致命的な影響を受けます(レピュテーションダメージ)。

 例えば,消費者が商品を購入しなくなり,国や地方自治体の競争入札において指名停止となり,これらによる業績の悪化,株価の下落や上場廃止,資金調達やM&A戦略における制約等があります。

 このような不利益は,法律上の責任を追及する場面と異なり,適正な手続の下での厳格な事実認定と法的評価を経ることなく発生し,「疑わしきは当該企業の不利益に」「有罪の推定」が働きます。

 そもそも何をもって不祥事といえるのかもはっきりしませんが,マスコミを介した社会一般の評価や世論が当該企業に対して相当程度のマイナス効果を与える原因事実を広く企業不祥事といってよいでしょう。

2 不祥事による傷口を小さくする

 不祥事の発生を完全に防ぐことができればよいのですが,数字上のゼロを達成すること自体を絶対的な目標とすることは,いたずらに緊張関係と新たな問題(隠ぺい等)を招くことにもなりかねません。

 多くの人間による活動の積み重ねが企業活動ですので,何らかのトラブルが発生することは避けられません。

 従って,現実的には一定程度の重要なトラブルの回避を意識することになりますが,それぞれの企業(業種や業態)ごとに抱えているリスク,従って想定される不祥事の内容は異なります。

 実験データに基づく製品開発メーカーであれば実験や数値の正確性が企業活動の根幹であり,食品を提供する業種であれば食の安全が生命線であり,多くの人員による生の活動が求められている業態であれば従業員の労務管理が重要である,というように,自社企業の特徴(セールスポイントと不祥事は表裏一体)をよく理解することが必要です。

 また,不祥事は正規の手続外で起こることが多いので,日頃から,形式(手続)の重視だけでなく,実質的な問題点の把握に努める必要があります。この点で,私は,健全なオーナー企業(同族経営)は指揮命令系統の明確性や迅速な対応という点で不祥事に強いと感じています。

 そして,残念ながらリスクが現実化し不祥事に至った際には,マスコミ報道の影響が大きい現代の情報化社会においては,マスコミ対応の巧拙によって,不祥事の大きさ(不正の大小)が変わってしまうのが現実です。

 マスコミ対応が適切でなかったことにより傷口が大きくなり,企業の存続が果たせなかった例も少なくありません(雪印乳業や船場吉兆)。

 逆に,誠実な対応を行ったとして,(多少の時間はかかるかもしれませんが)評価を上げる企業もあります。信用や信頼というものは,平時の活動だけでなく何かに失敗したときの対応によって形成されるということができます。

3 マスコミ対応のポイントの例

(1)企業の対外的窓口を固定化

 マスコミ報道は,企業の説明(記者会見の内容)を正確に伝えるものとは限りません。断片的に切り取って組み合わせたり,時には脚色が加わります。また,当該企業の役員だけでなく従業員にも取材を行い,コメントを得られればそれを利用します。

 従って,企業としては,対外的な窓口(記者会見対応)を責任ある立場の特定の人間に固定しておくことが望まれます。そして,説明者が日によって変わるのは好ましくありません。一度でも発信した者は,以後はマスコミ取材の対象になります。

 また,不祥事発生後の最初の説明(記者会見)が不十分であったり混乱した内容であれば,マスコミの厳しい追及や社会一般のマイナス評価が付け加わりますので,第1回目の説明(記者会見)はとても重要です。

(2)企業内の体制

 不祥事に関する情報収集は,不祥事の現場(例.現地の工場や営業所)ではなく,本社の人間が行うのがよいでしょう。現場は,事実や責任を過小に報告する傾向があり,現場の責任者は現場の人間(直接行為者)をかばう傾向があります。

 そして,企業としてはできるだけ客観的に事態を把握できる体制が求められます。その際,事実(何が起きたのか,被害規模)と評価(責任の有無や所在や程度)の区別を意識することが必要です。

(3)被害状況(特に人の生命や身体)についての早期の誠実な説明

 製品や食品や機械設備等によって死者や負傷者が出たという事実を伝えることは企業にとってつらいことです。

 特に,事件事故の直後であれば,その原因が本当に自社にあるのかを確認できない段階にあります。

 ただ,事件事故に関係する(可能性がある)企業であれば,客観的な被害状況を正確かつ迅速に発表し,さらなる被害の拡大の可能性や被害防止に向けての対応(製品の販売中止や回収等)を明らかにすることが社会に対する責務といえます。

(4)マスコミ会見の会場と手順

 マスコミ会見の具体的な手順や対応方法については,最近は危機管理のコンサルタントが色々とアドバイスをすることが多いようですが,ここで少しだけ述べておくとすれば,記者会見を企業の本社や営業所で行うことはお勧めしません。取材を行う記者が常に出入りすることにもなってしまい,企業としての情報管理や不祥事対応が十分に行えなくなる可能性があります。

 従って,記者会見場はホテルの宴会場や公共施設の広めの会議室がよいですが,会見を行う会社の人間と取材記者の出入り口が分かれている構造の部屋の方が,退席時の記者からの取材攻勢を避けることができるというメリットがあるでしょう。

 また,不祥事の内容やケースにもよりますが,質問時間を十分にとること,弁護士の同席(横に座り常にアドバイスできる状況にしておくことや,弁護士が最初に簡潔な説明を行い客観的状況について取材する側に理解してもらうこと)等があります。

4 おわりに

 本コラムで述べたことは,企業不祥事の際の対応の一部であり,対応の具体的な内容は企業の種類や不祥事の内容によって千差万別です。

 最近は,企業不祥事の際に弁護士が早い段階から関わるケースが増えていますが,傷口を小さくしてダメージからの回復を図るためには弁護士の活用は有効であると思いますので,企業規模の大小や業種・業態を問わず,弁護士を積極的に利用していただくことを御検討下さい。

 何十億円や何百億円あるいはそれ以上の損失を,それよりはるかに少ないコストによって防ぐことができます。

 企業は社会的存在ですので,社会からの評価と社会的制裁の程度は表裏一体です。大企業や有名企業であればあるほど,マスコミ報道を介したレピュテーションダメージは大きくなります。「積極的に儲ける会社経営」だけでなく「多くのステークホルダーあっての会社経営」を改めて認識していただければと思います。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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