2019年3月

寅さんと私


小林 弘卓



 映画「男はつらいよ」が好きで、dvdは、全巻そろえ、暇があれば繰り返し見ている。
 毎回物語はいたって単純で、寅さんがマドンナにふられて、また旅に出るのだけれども、実に四九作も作られた。渥美清が生きていればシリーズは続いたであろうし、現に、目下「男はつらいよ」の新作が制作途中とのことである。
 どうしてこの映画に惹かれるのかと言えば、社会で生きていくための術をその都度教えられるから。
 そんな、「男はつらいよ」第二六話に以下の詩が登場するので、ここに紹介します。
 「国鉄職員の詩」と言うことで、先生役の松村達雄が定時制高校の生徒たちに朗読するものです。

とびらをあけます 頭の芯まで臭くなります
まともに見ることはできません
すんだ夜明けの空気も臭くします
そうじがいっぺんに嫌になります
むかつくようなババグソがかけてあります
どうして落ち着いてしてくれないのでしょう
けつの穴でも曲がっているのでしょう
それともよっぽどあわてたのでしょう
くちびるをかみしめ とのさんに足をかけます
静かに水を流します
ババグソにおそるおそる ほうきをあてます
ボトンボトン 便つぼに落ちます
かわいたクソはなかなかとれません
たわしに砂をつけます
手を突き入れてみがきます
汚水が顔にかかります
くちびるにもつきます
そんなことにかまっていられません
ゴシゴシ美しくするのが目的です
朝風が つぼから顔をなであげます
心もクソになれてきます
水を流します
雑巾で拭きます
きんかくしの裏までていねいに拭きます
もう一度水をかけます
クレゾール液をまきます
白い乳液から新鮮な一瞬が流れます
便所を美しくする娘は美しい子供を産むといっていた母を思い出します
僕は男です 美しい妻に会えるかもしれません




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