2018年3月

国際私法入門(1):日本の裁判で外国の法律を適用すること


ジェイムス・ダカティ



 日本の裁判では日本の法律を適用して判決を書くのが当たりまえ、と思うかもしれません。しかし、意外とそうでもないのです。

 たしかに、日本の裁判の大半では日本法を適用して判決しますが、事件によっては外国の法律の内容を調べて、日本の裁判所が外国の法律の内容に従って判決を書く場合があります。

 例えば、フィリピン在住のAさんが、フィリピン在住のBさんに高価な油絵を売ったとしましょう。その後、Bさんは油絵を受け取っておきながら、代金を払いません。このとき、Aさんは、代金を強制的に回収しようと思ったらどの裁判所に訴え、その裁判所はどこの国の法律を適用すべきでしょうか。

 こう聞けば、だれでも、「フィリピン」と答えるでしょう。当事者が両方フィリピンに住んでいて、フィリピンで油絵の売り買いをしたのだから、その代金請求もフィリピンの裁判所で、フィリピンの法律を適用して行うべきでしょう。

 では、フィリピンで油絵を買ったBさんが日本に引っ越してしまっていた場合はどうでしょう? あるいは、Bさんが最初から日本在住だった場合はどうでしょうか?

 フィリピンの裁判所が国外に住んでいるBさんに対する管轄を認め、フィリピン国内で送達(裁判への正式な呼び出し手続き)をすますことができ、フィリピン国内で強制執行できるBさんの財産のあてがある場合は、Aさんがフィリピンの裁判所に訴えるという手もあります。しかし、日本に住んでいる人に訴状を送達するのは簡単とは限りませんし、フィリピンの裁判所で勝訴判決を得られても、Bさんが日本においている財産(例えば、日本の銀行の銀行口座に預けてあるお金)に対して執行するためには、日本で執行判決というさらなる判決をとる必要があり、たいへん手間がかかります。

 では、日本の、Bさんが住んでいる地域の地方裁判所に提起するのはどうでしょうか。住んでいるところの裁判所ですから、日本の裁判所はまず間違いなく管轄を認めます。日本の裁判所からの送達も比較的に簡単ですし、日本の財産に対する執行にも問題はありません。

 さて、Aさんがこれらの点に着目して日本の裁判所でBさんを訴えたとしましょう(私のように、英語ができる日本の弁護士に依頼したのでしょう)。Aさんとしては、売買契約に基づく車の代金と支払いが遅れていることによる遅延損害金を請求したいところです。このとき、売買契約の成立や、支払時期、そして遅延損害金の利率については、どこの法律を適用して決めるのでしょうか? 日本法でしょうか? それともフィリピン法でしょうか?

 実は、日本には、こういった場合に、どの国の法律のルールを適用するのかを決める法律があります。「法の適用に関する通則法」(以下、「通則法」といいます)です。日本の法律を適用するのかどうかを日本の法律の定めで決めるのです。

 そして、契約のような「法律行為」の場合は、「当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法」(通則法7条)によって決めるのが原則です。具体的にいえば、契約書に「フィリピン法を適用する」と書いてあれば日本の裁判所はフィリピン法を適用しますし、「日本法を適用する」と書いてあれば、日本法を適用します。このため、国際的な契約のほとんどには、適用する法律(準拠法)に関する定めがあります。

 しかし、例のAさんとBさんは、売買契約を結んだときに、適用する法律については、特に決めていなかったものとしましょう。その場合は、売買契約は一方だけが「特徴的な給付を行うものである」法律行為であることから(代金を支払うことはとても特徴的とはいえませんが、油絵を渡すことは、代金支払いよりはずっと特徴的です)、特徴的な「給付を行う当事者の常居所地法」(通則法8条2項)、すなわち、売主のAさんの住んでいるフィリピンの法律が「当該法律行為に最も密接な関係がある地の法」として適用されます(通則法8条1項)。

 つまり、日本の裁判所で、フィリピンの法律を適用して裁判を行うことが日本の法律(法の適用に関する通則法)によって決まっているのです。


(次回は、外国の法律が日本の裁判所で適用される例をもう少しみていきましょう)



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