2017年10月

交通事故の際の健康保険の利用

九石 拓也



 交通事故での治療に健康保険を使えるのかとの相談を受けることがあります。
 交通事故の場合,自由診療で治療が行われることも多く,特に,加害者の任意保険会社が対応している場合,健康保険の利用を意識することもないかもしれません。
 もっとも,加害者が任意保険に加入していない場合などでは窓口での治療費の支払いが必要になりますし,治療期間が長くなると保険会社から健康保険への切り替えを求められることもあるでしょう。
 
 結論からいえば,交通事故でも保険証を提示して健康保険を利用することは可能です(昭和43年10月12日厚生省通達)。
 加入する健保組合などに「第三者行為による傷病届」を提出することで,健康保険を利用することができます。窓口での治療費支払いは自己負担分(1〜3割)となり,健保組合などの保険者が後日保険給付分を加害者に請求(求償)することになります。
 なお,健保診療の場合,医療機関から自賠責保険定型の診断書等の発行に難色を示されることもありますので,受診する医療機関にも事前に相談しておくとよいでしょう。
 
 健康保険の利用を積極的に検討したほうがよい場合があります。
 加害者が任意保険に加入していないなど支払いに不安がある場合,過失相殺が見込まれる場合などです。
 
 加害者が任意保険未加入で,収入や資産も十分でない場合,法的に加害者が負担すべき治療費であっても,実際には支払いが受けられず事実上自己負担となるリスクがあります。
 加害者加入の自賠責保険から被害者請求などで支払いを受けるにしても,自賠責保険の傷害分の限度額は120万円であり,これは治療費の他に,休業損害,慰謝料なども含んだ額ですので,入院を要するような重傷だと,あっという間に治療費だけで限度額に達してしまうことも少なくありません。また,加害者が自転車の場合には,そもそも自賠責保険もありません。
 健保診療による治療費は,通常自由診療の場合より診療単価が低額ですので,治療費の額を抑制することで慰謝料など他の損害の分の確保につながります。損害が自賠責保険の限度額を超える場合や自賠責保険がない事故の場合には,加害者から支払ってもらえない場合のリスクを抑えることになります。
 
 また,被害者にも事故の発生や損害の拡大に落ち度がある場合には,過失相殺により加害者が負担する損害賠償額が減額されます。
 過失相殺された分は加害者に請求できませんので,特に被害者の落ち度が大きい場合には,早い段階から健康保険の利用を検討するのがよいでしょう。


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