2017年7月

国際的な相続にどの国の法律を適用するか(1)

ジェイムス・ダカティ



 国際的な相続にどの国の法律を適用するかは、意外と複雑な問題になることがあります。国際的な相続のパターンは多岐にわたりますが、外国人が日本で亡くなった場合、日本人が外国に資産を残して亡くなった場合、そして、日本人が外国でなくなった場合に大別することができるでしょう。
 今回は、そのうち、「外国人が日本で亡くなった場合」について見ていきましょう。

1 外国人が日本で亡くなった場合
 外国人が日本で亡くなった場合、その外国人の残した財産については、誰がどのような割合で、またどのような手続きによって相続するのでしょうか。その外国人、すなわち「被相続人」の財産が日本にある場合と外国にある場合(そして、両方にある場合)で変わり得るところですが、今回は、議論を単純にするために、被相続人の財産はすべて日本にあるものとしましょう。
 財産が日本にある場合、相続人が誰かやその相続割合について納得させなければいけない機関は、遺産分割調停や審判をする場合は日本の家庭裁判所ですし、他には法務局などの役所、そして銀行などの金融機関が主たるところでしょう。
 さて、日本の家庭裁判所や日本の役所なら当然日本法を適用する……かというと、実はそうではありません。国際的な事件について、どの国の法律を適用するかについては、各国がそれぞれ独自の規則を定めており、日本の場合は日本の国会で定めた法律である「法の適用に関する通則法」により、どの国の法律を適用するかを決めることとなっています。

 そして、法の適用に関する通則法第36条によると、「相続は、被相続人の本国法による」とされています。つまり、亡くなった方の国籍によって決めることとされているのです。(なお、残された相続人(配偶者や子などの遺族)の国籍は関係ありません)
 韓国人の方が亡くなれば韓国法が、ニュージーランド人の方が亡くなればニュージーランド法が、アメリカの方が亡くなればアメリカ(の州の一つ)の法が適用されることとなります。
 遺言がある場合には、概ね遺言に沿った分配が行われるので(遺言の方式については、「遺言の方式の準拠法に関する法律」により、本国法による方式などが広く認められ、なるべく遺言が有効になるようなっています)準拠法による差は小さいといえますが、遺言がない場合には、誰が何割ずつ相続するのか自体が変わってくるため、準拠法による違いが大きくなります。

 もっとも、被相続人の本国法が適用されるという原則には、例外が二つあります。一つ目は、被相続人の本国法が(日本の)公序良俗に反する場合、公序良俗に反する部分の適用はされないことです(法の適用に関する通則法第42条)。
 二つ目の例外はもう少し複雑で、被相続人の本国法によると日本法が適用される場合は日本法が適用されます(第41条前段。これを「反致」といいます)。
 前述したとおり、各国は国際的な事件について、どの国の法律を適用するかについて、それぞれ独自の規則を定めています。そして、海外の国(より正確には「法域」)の中には、国籍ではない基準で適用法を決める法域があります。たとえば、アメリカ、イギリスなどの英米法圏では、最後の定住地(ドミサイル)を基準にして、適用する法律を決めることが多いようです。
 とすると、例えば、日本に定住していたアメリカ人が亡くなった場合、アメリカの州の規則によっては、「アメリカのA州では日本法を適用するのに、日本ではアメリカのA州の法律を適用する」といったあからさまに無駄な事態が生じてしまいます。
 このような場合、日本の通則法は、「反致」を行い、日本の相続法を適用するのです。これにより、「アメリカのA州でも日本でも日本法を適用する」ことになり、日本だけがアメリカのA州法を適用するといった無駄が避けられます。
 私が取り扱った事例で、アメリカのとある州の出身者が日本で亡くなったところ、遺族としては日本で限定承認を行いたい、という場合がありました。遺産は日本にしかありませんでしたので、日本の家庭裁判所で限定承認の申述を行うため、「当該人物は日本に定住しており、その相続については、同州では日本法を適用することとなる」旨の意見書を取得して裁判所に提出するなどして、限定承認の申述と相続財産管理人の選任を行うことができました。
 反致が認められるために、外国における準拠法適用のルールを調査する必要はありますが、反致が認められれば、外国法の中身に関する調査は必要なくなりますし、日本法の通常な手続きで相続をすることができることがはっきりしますので、相続をスムーズに行うにおいてはメリットが大きいといえます。


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