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「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正

澤田 行助

 公正取引委員会は、昨年末、下請法の運用強化の観点から、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正を行いました(※1)。運用基準では、「製造委託・修理委託」、「情報成果物作成委託」及び「役務提供 委託」の各類型ごとに、具体例が大幅に追加されています。追加されたものは、指導の中で違反行為が繰り返されたものや、事業者の規範意識が低いとされたものですので、ここでいくつかご紹介します。

(1)受領拒否に関するもの

受領拒否とは、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと」です。具体例として、生産計画の変更や設計変更による受領拒否、繁忙期などで受領体制が整わないことや取引先の都合を理由とした受領拒否などが挙げられています。

(2)下請代金の減額に関するもの

下請代金の減額とは、「下請事業者の責に帰すべき事由がないのに、下請代金の額を減ずること」です。親事業者が下請事業者に対して正面から減額させることはあまりなく、多くの場合は何らかの名目を立てて減額することが通常です。例えば、親会社が自己の値引きセールを理由に、下請代金から一定額を差し引いたり、一定の売上額や仕入額に対して歩引きと称して値引きを行ったりする行為がそれです。また、出精値引き、達成リベート、オンライン処理料、販売促進費、割戻金など不合理な理由により多くの減額が行われてきていますが、違反行為事例では、これらによる違法な減額の具体例が1つ1つ丁寧に挙げられています。

(3)支払遅延に関するもの

支払遅延とは、「下請代金を支払期日の経過後なお支払わないこと」です。下請代金の支払期日は、「給付を受領した日(役務提供委託の場合は役務を提供した日)」から起算して、60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない」とされています。例えば、「毎月末日納品締切、翌々月10日支払」等の月単位の締切制度を採っている場合に、締切後30日以内に支払期日を定めていないこと(支払い制度の不備)により、給付の受領日から60日目までに下請代金を支払わないようなケースや、請求書が提出されないことによる支払遅延など、様々なケースが挙げられています。

(4)返品に関するもの

返品とは、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること」です。賞味期限切れや商品の入替を理由とした返品、恣意的な検査基準の変更による返品などが具体例として挙げられています。

(5)買いたたきに関するもの

買いたたきとは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」です。親事業者が親事業者の取引先と協議して定めた「○年後までに製品コスト○%減」という目標を達成するために、下請事業者に対して、半年毎に加工費の○%の原価低減を要求し、下請事業者と十分な協議をすることなく、一方的に通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定めること、量産期間が終了し、発注数量が大幅に減少しているにもかかわらず、単価を見直すことなく、一方的に量産時の大量発注を前提とした単価で下請代金の額を定めることなどが具体例として挙げられています。

(6)購入・利用強制に関するもの

購入・利用強制とは、「下請事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させることにより、下請事業者にその対価を負担させること」です。親事業者が下請事業者に対して、自社製品・自社の関連会社の製品の購入を強制したり、取引先製品の購入を強制したりすることなどが具体例として挙げられています。

(7)不当な経済上の利益の提供要請に関するもの

不当な経済上の利益の提供要請とは、「親事業者が下請事業者に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることにより、下請事業者の利益を不当に害すること」です。親事業者が下請事業者に対して協賛金や協力金などの提供を要請したり、在庫商品の返品に関する送料を負担させたりすることなどが具体例として挙げられています。

(8)不当な給付内容の変更及び不当なやり直しに関するもの

不当な給付内容の変更及び不当なやり直しとは、「親事業者が下請事業者に対して下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は受領後に給付をやり直させること」です。設計変更を理由として発注内容が変更したにも関わらず、下請事業者に生じた事件費増加費用等を支払わなかったり、取引先の要請を理由として発注を取り消し、それまでに下請業者に生じた費用を支払わなかったりすることなどが具体例として挙げられています。

上記具体例から見ても分かる通り、違反行為の多くは、現場の担当者間で行われるもので、役員はその実態を知らないことがほとんどです。親事業者は、従業員によるこれら違反行為が行われることのないように、下請取引コンプライアンス・プログラム(※2)等を利用しながら、下請法遵守にかかる社内体制の整備を徹底することが重要です。

※1公正取引委員会 下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準

(平成28年12月14日公正取引委員会事務総長通達第15号)

※2中小企業庁 下請取引コンプライアンス・プログラム

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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