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電気通信事業法の改正

高木 篤夫

 昨年,電気通信事業法が改正され,今年5月21日に施行されることになっている。

 この改正法の大きな改正点は,(1)電気通信事業の公正の競争の促進,(2)利用者保護及び(3)その他の部分がある。主に(2)の部分で一般利用者については大きな影響があるので,(1)を簡単に説明した上で,(2)を中心に紹介する。

(1)「電気通信事業の公正競争の促進」

 公正競争の促進については,光回線の卸売サービス等に関する制度整備を行って光回線等の多様なサービス展開を図っていくこと,禁止行為規制を緩和するなどして他の事業者と連携して新たなサービス提供を行っていく環境を整え,携帯電話網の接続ルールを充実してMVNO(仮想移動通信事業者)のサービス展開を促進しようとしている。

(2)電気通信サービスの利用者保護の充実

 電気通信事業における利用者保護は,平成26年12月の「ICTサービス安心・安全研究会報告書〜消費者保護ルールの見直し・充実〜〜通信サービスの料金その他の提供条件の在り方等〜」の内容によって立法化されたもの。これまで,電気通信事業法には消費者保護ルールの規定として18条3項(事業の休廃止に係る周知),26条(提供条件の説明),27条(苦情等の処理)の条文がおかれていたが,いずれも行政規制にとどまるものであって,契約の効力にかかわる民事ルールは取り入れられていなかった。

 今回,初期契約解除制度という民事的効力を有する制度を導入するにとともに,消費者保護のための規定の充実を図っている。

○初期契約解除制度の導入

 書面交付義務を前提とした「初期契約解除制度」を導入した。携帯電話などのサービスが利用可能な場所等を利用前に確実に知ることが困難,料金等が複雑で理解が困難といった特性がある電気通信サービスについては,契約締結書面受領日か,サービス提供開始日のいずれか遅い方から8日以内は,利用者は一方的に契約解除ができるという制度が創設された。

 これまで電気通信サービス契約については,特定商取引法の適用除外であって訪問販売や電話勧誘販売で契約したとしても,クーリング・オフの規定の適用ができなかった。今回の初期契約解除制度は,無理由解除が認められることと,解除による損害倍書請求や違約金請求も禁じられているという点ではクーリング・オフに近いものといえるし,特定商取引法のように販売形態を問わず,店舗販売でも解除ができるという点では広い範囲で保護されうるとはいえる。

 ただし,この解除制度の対象はあくまで電気通信サービスのみについてであって,電気通信サービス契約と同時に締結することが多い端末等の購入契約については認められていないことは注意しなければならない。通信サービスの契約は解除できるのに端末機器は手許に残るということになると,利用者にとっては無駄な物が手許に残るということになりかねない。ただし,今後SIMフリー端末が一般的になれば,他の通信サービス事業者と契約することで利用可能ということになっていくことを期待されているといえる。現在は,SIMロックがかかっている端末でも購入から一定期間経過後にはSIMロックをはずすことができるように各キャリアが制度改革を進めているが,SIMロックを外すまでの利用できない空白期間が存在することは,利用者にとってはシームレスな事業者の移行が妨げられることになってしまう。

 さらに,初期契約解除制度は,すでに使用した電気通信役務の対価や一定の工事費用については,支払義務が残るという点は,クーリング・オフとは異なる。認められる額は,総務省令で定められることになっており,合理的な金額に制限されることは期待されるが,これは初期契約解除ができる期間に使い倒して解除してしまうといういわゆるモラルハザードを防ぐにはやむをえないものともいえるであろう。

○ 初期契約解除制度の適用除外

 初期契約解除制度も,省令により移動体通信については,実際には広い範囲で適用除外が認められる可能性がある(改正施行規則案22条の2の7)。これは,「移動通信役務を利用できる場所の状況や法令等の遵守の状況についての「確認措置」を講じている役務であって,利用者利益が保護されているものとして総務大臣が認定する電気通信役務の契約を締結した場合」が適用除外とされているのである。移動体通信は電波状況は現実に利用してみないとわからないということからキャリアが「お試しサービス」を任意で提供している場合には,初期契約解除制度の適用を除外してもよいという方向である。

 しかしながら,この認定される「確認措置」では,解除できる理由を電波状況の問題に限っているのは,初期契約解除制度が無理由解除を認めていることと対比して要件が絞られてしまうことに問題がある。他方で,「確認措置」については解除は関連契約についても解除可能としている点では初期契約解除制度よりは広く保護されるケースもある。

 現実に,この「初期契約解除制度」と認定される「確認措置」とが現実に利用者のトラブルにどこまで対応できるのかは改正法が施行されてからの検証をまたねばならないだろう。

○書面の交付義務・説明義務

 説明義務についても,施行規則の内容ともあいまって追加・充実している部分は多い。また,重要事項についての不実告知や事実不告知を禁止するなどの措置を明示している。

○勧誘継続行為の禁止

 さらに,勧誘を受けたものが執拗な勧誘を受けて必要ないサービスでも契約してしまうということがないように,契約を締結しない旨の意思表示をした場合には,勧誘継続行為を禁止している。

○代理店に対する指導等の措置

 代理店(媒介等業務受託者)に対して,電気通信事業者に指導等の措置義務づけた。これまで,利用者に対する契約の勧誘・説明等は実際には代理店等が行い,そこで不当な勧誘行為・契約締結等のトラブルが発生することがままみられたが,電気通信事業者に代理店業務についての研修,監査等を義務づけることによって,代理店が関与するトラブルについても電気通信業者の責務を定めることとなった。

 上記のような消費者保護に関する電気通信事業法のルールについては,「電気通信事業法の消費者保護ルールに関するガイドライン」が法改正対応のためパブリックコメントを経て4月に公表され,改正法関係はこのページ上で参照できるので,興味のある方は参照されたい。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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