2015年5月

在日米国人弁護士あるある

ジェイムス・ダカティ



「外国の方が日本の弁護士をしているというのは珍しいですよね」とよく言われます。実は、韓国・朝鮮籍や中国籍の人を中心として、日本の弁護士資格を持った外国人の弁護士というのは相当いるのですが、私のように一目見て外国人と分かる日本の弁護士というのはまだ少ないようです。

今回のコラムでは、外国人弁護士、特に見た目や名前からして欧米系の弁護士ならではの体験を3つほどご紹介します。

1. 署名の公証を頼まれる

 例えば故郷の不動産を売却したいから契約書にサインがしたい、親戚に代理権を与えたいから委任状を書きたい、といった方から「署名を『認証(notarize)』して欲しい」という電話がかかってくることがあります。これに対してはまず、「残念ながら、私はできないんです」とお答えしています。

 署名の認証というのは、書面になされたサインが、確かに自分の前で本人がサインしたものである、ということを公に証明する行為です。日本の法制度では、公証役場の公証人が行なうことができます。
署名の認証がされている書面であれば、サインが確かに本人のものであることが証明でき、相手方が安心して取引に応じることができます。日本国内の取引であれば、実印による押印と印鑑登録証明書が果たすのと同じような役割があるのです。

 お電話を下さる方は、法律事務所なら「署名の認証ができて当然」という感覚があるようです。米国では弁護士に当然に公証権限がある州がある他、ほとんどの州では簡単に公証人(notary public)になれるので、多くの法律事務所では公証ができる人を備えている、と聞いています。「私は日本の弁護士で、日本の弁護士は署名の認証ができないのですよ」と説明すると少し驚かれることもあります。

 じゃあ、どうすればいいかと聞かれて、基本的には、取引相手の国(大体は自分の国)の大使館に行ってそこで署名の認証を受けることを勧めています。大使館では自国の法に基づいた公証サービスを提供していますので、署名の認証の様式も、取引の相手にとって見慣れたものとなり、その効力に疑義が生じることがないからです。
 ときには、大使館の公証サービスの予約がなかなか取れず、取引に間に合わない、という方もいます。その場合は、英語での署名の認証を行なってくれる、日本の公証役場に行くことを勧めますが、必ず取引相手や現地の弁護士に「日本の公証人の公証でもいいか?」を確認するように勧めています。日本の公証人の署名認証には、日本の外務省による認証も付きますので、ほとんどの国で有効と扱われるはずですが、疑義が生じるのを予め防ぐためです。
 一人で公証役場の手続きをするのは不安だ、という方には書類の事前チェックや公証役場への事前の問合せ、署名認証の立合い、といった業務を、費用を頂いてすることもあります。

2. 日本以外の国のビザの取り方について相談される

 「自分は日本に住んでいるA国人で、B国人の夫をA国に連れて帰りたいのだが、A国のビザが下りない。どうすればいいだろうか?」「自分は日本に住んでいるC国人だが、D国に移住したい。どうすればビザが取れるだろうか?」といった電話がかかってくることもあります。こうした質問に関しては、「私ではお手伝いできません」とお答えしています。

 私は日本の弁護士ですが、他国の法についてはエキスパートではありません。日本への入国や、日本での在留資格の更新ならご相談にのれますし、外国との契約における留意点でしたら有用なアドバイスもできるかと思うのですが、各国の入管法は各国のポリシーに応じて千差万別ですので、有用なアドバイスをするのは難しいでしょう。

 こういった相談の問題は、署名認証の場合と違い、日本国内でとれるシンプルな対策がないことです。弁護士検索のシステムを使って、当該国の資格を持つ日本にいる外国法事務弁護士(あるいは検索の方法)を教えたり、事案によっては当該国の大使館に直接聞いて問題ないのではないか、とアドバイスしたりしますが、中々責任をもった対策がとれません。
 結局、現地の法律事務所のアドバイスが必要ということになりますので、当事務所の提携事務所がある国であれば、提携事務所をご紹介することになるでしょう。

3.刑事事件の接見では意外に驚かれない/安心される

 私が司法修習に行っていたときには、教官や同期に「逮捕されて、当番弁護士を呼んでダカティが来たら、ビックリするよな」といったことを何度か言われていました。被疑者の方が当番弁護士を呼ぶときは、事前に誰が来るといった説明はありませんので、驚くかもしれないと自分も思っていました。しかし、弁護士になって留置所に接見に行ってみると、被疑者の方は意外に驚きませんし、私の国籍も聞きません。逮捕・勾留されているという異常事態や、早く解放されたいと焦る気持ちの前では、弁護士が何国人か、というのは本当にどうでもいいことになるのでしょう。
 逆に外国籍の被疑者の方の場合は、顔を見られた瞬間に安心されることもあります。東アジア系で欧米人の被疑者のときには、私が一言も喋る前から「あなたが来てくれて助かった」と英語で感謝されたこともありました。
 その方は日本への旅行者だったのですが、英語もあまり通じない警察官に囲まれて取調べを受け、通訳を介しても言いたいことが伝わっているのか、もどかしい状況で、自分の立場を分かってくれそうな人が来た、ということ自体がよほど嬉しかったのでしょう。

 今回は、外国人の依頼者の方の話ばかりになりましたが、法制度や言語の壁を超えるときに、専門家の助けが必要になる、というのは日本人の依頼者の方も同様です。次回のコラムではまた別の方向性での「あるある」を紹介していきたいと思います。


                

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