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未成年者とオンライン取引のトラブルをなくしたい

高木 篤夫

 この8月経済産業省が策定している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」が改訂されました。

 今回はデジタルコンテンツの関係論点を中心に改訂が行われたものです。私もこの改訂作業の一部に携わらせてもらっていましたが、特に未成年者のオンラインゲームトラブルについては、消費者からの相談現場からも未成年者が高額課金をトラブル事例があとを断たないということを仄聞していたので関心をもっていたところです。(「子どものオンラインゲームのトラブルにご注意ください!」(国民生活センターWeb))

 未成年者がオンラインゲームを利用するのは容易になっていて、未成年者がゲームを利用しようとすることは事業者側には容易に予測できますし、未成年者を主な利用者として想定しているものもたくさんあって実際にも多数の未成年者がオンラインゲームの利用をしています。

 他方で、多数トラブルとなっているような未成年者が数十万、100万円を超える金額をゲームに費やせてしまうというのは常識的にみて適切なものではないのは誰もが一致して認めるところでしょう。高額課金のトラブルにあったことによって、子どもは責任回避のために自分は使ってないなどと嘘をつかざるをえなくなったり(子どもは親に怒られるのが最も怖かったりします)、家族関係や友人関係まで含めて人間関係が壊れるという事態もあるとのことです。

 現在では、スマホやタブレットが普及して、誰もが容易にオンラインサービスを利用できるようになっています。また、オンラインゲームはフリーミアムというビジネスモデルがとられることが多く、これば無料で基本サービスが提供され、より高度なプレイや魅力的なコンテンツを獲得するには課金が必要な有料サービスが用意されていて巧みに課金に誘導している仕組みです。サービス利用の操作も比較的単純で、取引の敷居は非常に低いといえます。かつ課金の状況も利用者の自己管理がある意味しにくくなっているところがあります。

 精神的能力が十分に備わらず判断能力が未熟な未成年者がこのようなツールを実際にもつようになった時代になり、かつ未成年者にとって魅力的なコンテンツが提供されていることを考えると、事業者側が適切にユーザーを切り分けて未成年には過剰な経済的負担を生じさせないサービスを提供することが肝要です。

 事業者も決して放置しているわけではなくて年齢確認画面を設けて年齢確認をして制限するようなことも行われていますが、それも今のところは十分とはいえないように思えます。少なくとも現在では未成年者を事業者側から適切に見分けて未成年者が高額課金を未然に防止する仕組みづくりとしては不十分と感じられます。

 ただ、ここのところは、技術の発展によって、たとえば顔認証などで比較的年齢が判断しやすくなったり、社会の仕組みとして個人認証のための仕組みが形成されたりといった今後の技術進化や社会制度の変化によってより精緻な仕組みづくりができるようになることは考えられます。

 未成年者をスクリーニングする仕組みを作っても、そのハードルをすり抜けてしまうことは当然考えられます。未成年者は、携帯端末・IT機器などの操作については知恵をもっていたりしますが、十分な理性的判断をもって行動を抑制する能力が十分ではないことが多く、ある意味で目的のためには後先考えずに手段を選ばない、結果の重大性まで思いが及ばないということは想像できるところです。そうした発達途上の未成熟さが未成年にはみられます。他方で未成年者を監督すべき親権者らが、未成年者と比較して十分な電子商取引や通信の知識をもっていなかったりすることもよくあることです。

 こう考えてみると、未成年者をも利用者として想定しつつサービスを提供している事業者は、未成年者が高額の取引を行ってしまうリスクは一定程度ひきうけざるをえないとも考えられるところです。

 また、決済の点からみると、いわゆるポストペイの仕組み(主にクレジットカード決済)で課金が支払われることも高額課金トラブルの一因でもあります。与信を伴う決済手段がなければ高額課金トラブルは格段に減るでしょう。子どもが自分の決済に親のクレジットカードを簡単に利用できないように、支払手段の仕組みについてもより高度なパーソナル制御が必要だと思われます。

 ポストペイの仕組みのままでも課金状況の透明性の確保もトラブル予防措置のひとつとして有効かもしれません。ただし、ユーザーにたくさん使ってほしい(お金を落としてほしい)事業者側としては抵抗があるかもしれません。

 簡便にかつ容易にサービスを提供してビジネスとして成立させつつ、ユーザーそれぞれに適合する適切なサービスを提供するというのはむずかしいものと感じます。

 未成年者とオンラインゲームの高額利用問題から思うままにその背景となる問題について述べてきましたが、未成年者取引には法的処理としても考えるべき問題が残されています。今年度、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」も未成年者の意思表示の論点が改訂されたものの今後の実務の動向を見据えつつ検討を加えるべき点は残っていると考えています。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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