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区分所有法59条1項に基づく競売について

綱藤 明

1 区分所有法59条1項に基づく競売をするためには、当該区分所有者に同法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」がなければならないところ(同法59条1項,57条1項,6条1項)、著しい管理費の不払もこれに含まれると解されている。

 そして、同法59条1項に基づく競売をするためには、「区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である」必要がある。このうち、「他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」との要件については、同法59条が行為者の区分所有権を剥奪し、区分所有関係から終局的に排除するものであることからすれば、上記要件に該当するか否かについては厳格に解すべきであろう。すなわち、滞納した管理費等の回収は、本来は同法7条の先取特権の行使によるべきであって、同法59条1項の上記要件を満たすためには、同法7条における先取特権の実行やその他被告の財産に対する強制執行によっても滞納管理費等の回収を図ることができず、もはや「同条の競売による以外に回収の途がない」ことが明らかな場合に限るものと解するのが相当である。そして、「同条の競売による以外に回収の途がない」といえるかは、不払管理費等の額、不払の期間、管理者等と当該区分所有者との交渉の経緯、他の民事上の法的手続によって未払管理費等を回収することができる可能性があるかどうかなどの事情を、個々の事案に応じて具体的に検討する必要がある。

2 裁判例の検討

【区分所有法59条1項の要件充足を否定した裁判例】

 『原告が本件支払督促に基づき債権差押命令を得たものの、差押債権である預金債権の残高がなかったため奏功せず、さらに、先取特権の実行ないし本件区分所有権等に対する強制執行は、元本合計約3000万円の抵当権及び根抵当権の存在により無剰余により取消しとなることが見込まれる事例』について、『被告に対する債権回収の方策として、預金債権以外の債権執行の余地がないかについて明らかとはいえず、未だ本来の債権回収の方策が尽きたとまでは認められない。さらに、被告は、本件訴訟の第2回口頭弁論期日に出頭し、陳述した準備書面において、長期間にわたる管理費等の滞納を謝罪するとともに、経済状況が好転したことから本件管理費等の分割弁済による和解を希望する旨の態度を示しているのであって、このような被告の態度からすれば、原告が和解案として、まず被告に対して分割弁済の実績を示すことを要求するなどして、和解の中で本件管理費等を回収する途を模索することも考えられるところ、原告は被告の和解の希望を拒否して、区分所有法59条1項による競売の途を選んだといえる。このような状況からすれば、本件において、原告には、同法59条1項による競売申立て以外に本件管理費等を回収する途がないことが明らかとはいえないというべきであり、同条項所定の上記要件を充足すると認めることはできない。』とした裁判例がある。

【区分所有法59条1項の要件充足を肯定した裁判例】

 『①被告が、管理組合からの支払い催促に対して居留守を使うなどし、具体的な支払い提案をしなかった、②被告が原告代理人を脅迫した、③被告の応訴態度が不誠実であった、④被告の預金債権の差し押さえが不奏功に終わった、⑤被告の区分所有権には、第1順位の抵当権設定登記、第2順位の抵当権設定仮登記、第3順位の条件付賃借権設定仮登記、第4順位の抵当権設定仮登記があり、管理組合が区分所有法条の先取特権や区分所有権の強制競売を申し立てたとしても、無剰余による取り消しとなる可能性が高かった事例』について、『未払管理費等についての被告の対応や応訴態度に照らせば、被告からの任意の支払がされる見込みはなく、今後とも被告の管理費等の不払額は増大する一方であると推認できるところ、原告は採り得る手段のほとんどすべてを講じている上、仮に区分所有法7条による先取特権又は本件マンション○○号室及びその敷地権の競売を申し立てたとしても、被告の未払管理費等を回収することは困難であるというほかないから、「区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難」な状態が生じていると認めることができ、同法59条1項に規定する要件をみたすものと認めることが相当である。』とした裁判例がある。

3 まとめ

 たしかに、『管理組合が区分所有法7条の先取特権や区分所有権の強制競売を申し立て、無剰余による取り消しがなされた事実』があれば、区分所有法59条1項の要件充足が認められやすいといえよう。しかし、前記の2つの裁判例を検討すると、滞納者の悪質性が高く、無剰余取り消しの可能性も高い場合には、同法7条の先取特権や区分所有権の強制競売を経ない場合でも、同法59条1項の要件充足が認められる可能性があるというべきである。従って、滞納者の悪質性が高い場合には(特に、管理組合が同法7条の先取特権や区分所有権の強制競売を申し立て、無剰余による取り消しがなされた場合、予納金の相当部分が無駄になる可能性があることに鑑みれば)、直ちに同法59条1項訴訟を提起することが検討されるべきである。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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